明日なき狼達
「来たら来たで迎えて上げれば良いじゃないですか」

 ベッド脇で腹筋をしていた神谷が言った。

 部屋の隅で一人うずくまるようにしていた梶は、そういった皆のやり取りを冷ややかに見ている。

 加代子はそんな梶を腹立だしく感じていた。

「あんた、一人だけ浮いてるよ」

 梶の側に行き、加代子は囁いた。

 加代子の問い掛けにも、梶は目線を合わさずに、じっと押し黙っている。

「駄目だこりゃあ」

 加代子は梶には何を言っても無理だと判断し、神谷の方へ行き、

「下手に頭の良いお方は、こういう事になると腰が引けちゃうんだね」

「姐御、梶の本当の姿をしったら、今の台詞が的外れだってすぐに気付くよ」

「あの姿を見てかい?どう見たって冴えない禿げ鼠にしか思えないんだけど」

「あいつと、大学の講堂に立て篭もっていた時、やっぱり最初はあんな感じで仲間の中じゃ一番頼り無さ気に見えたんだ。それがね、機動隊が催涙弾撃ち込みながら突入して来た瞬間、真っ先に鉄パイプ持って戦ったんだ。
 決して逃げたりするような男じゃないよ。俺なんかより、余っ程危ない奴さ」

「あんた程度と比べて上だの下だのって言ってるようじゃ、あんまり期待出来ないね」

 神谷は笑いながら、

「姐御の毒舌がやっと復活したな。やっぱりそうじゃなくちゃ」

 と言った。

 野島は澤村に詰め寄ったまま、まだ何かを言っている。

 その姿は、まるで駄々をこねる幼児のようだな、と児玉は眺めていた。

「浅井さん、万が一を考えて、私に銃を貸して置いて貰えませんか?」

「銃って?児玉さん、心配しなくても此処はうちの若い者がちゃんと四六時中詰めてますから」

「世話になっててこんな事を言うのも何ですが、自分の身を守るのに、全て他人任せというのは、気持ち的に不安が募り安くなるものなんです。自分で自分を守る最低限の術を身に付けて置くと、安心するもんなんですよ。年を取ったとはいえ、銃の扱いなら、少なくとも貴方達よりは慣れている」

 浅井は暫く考えてから、

「じゃあ、児玉さんにだけですよ」

 と言って、一旦部屋を出た。

 戻って来た時には、右手に新聞紙に包まれた塊を持っていた。

< 112 / 202 >

この作品をシェア

pagetop