明日なき狼達
 包みを受け取った児玉は、中から拳銃を取り出し、弾倉を外してから安全装置を解除した。その手つきが鮮やかで、見ていた浅井が以外そうな顔をしている。

「グレッグ90……ですか。オートマチックの拳銃の中では一番扱い易いかな」

 遊底をスライドさせ具合を調べたりしている児玉を見て、他の者達も今迄とは違った目付きで児玉を見ている。

「元レンジャーてのは肩書だけじゃねえんだな」

 そう言った野島に向かって、

「何十年もこんな物を扱ってましたから、自然と手が動いてしまうんです」

 と児玉が言った。

「とにかく、滝沢の事は、我々が何とかしますから、皆さんはもう暫く辛抱して下さい」

 澤村と浅井はそう言って、マンションを出た。

 浅井が運転する車に同乗した澤村は、滝沢を襲撃する手筈をあれこれ考えていた。ボディガードも殺らなければならない可能性が高い。二人、いや最低三人は滝沢の側に居るだろう。こっちは、実行する人間を二人、援護する人間がやはり二人位。それと、逃走する際の車の運転手と見張り役が一人ずつ。

 五人か……

 澤村は選別する顔触れに頭を悩ませていた。万が一を考えると、組に迷惑を掛けられない。自分一人が勝手に動く分はいいが、身内を使う事に躊躇いが生じ始めた。

 それとも俺一人でやるか……

 助手席で押し黙ったままでいる澤村を見ながら、浅井は澤村の思いを察していた。

 奴は自分一人でやろうとしている。

 手伝うと言えば、奴は絶対断るだろう。

 ここから先は俺の仕事だと言って……

 渋谷の自宅に戻った澤村は、服も着替えずベッドに横になった。

 ここ数日の疲れからか、軽く目を閉じただけなのに浅い眠りについていた。

 一時間程まどろんでいると、組事務所から電話が入った。大至急来いとの呼び出しだ。

 何か一抹の不安を抱きながら、澤村は百軒店の中にあるマンションの組事務所へと急いだ。顔を出すと、既に主立った者が集まっていた。

 舎弟頭で相談役という立場にある三輪が、顔触れの中では一番上に扱われていた。

 本来ならば、澤村の兄貴分である辰巳が渋谷を取り仕切る立場にあるのだが、今は刑務所に入っている。

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