明日なき狼達
 浅井は逃げる途中で、子供を通り掛かった金物屋の店内に押しやり、自分は路地伝いに銀座へ向かった。

 偶然、クリーニング屋の店先に、エンジンを掛けっぱなしにして停めてあった車を見つけ、それを盗んで逃げた。

 児玉達を匿っているマンションから、100メートルばかり離れた路上に乗り捨て、尾行の無い事を充分に確認してからマンションに戻った。

 真っ青な表情をして突然に部屋へ入って来た浅井を見て、児玉は何かあったなと直感した。

 冷蔵庫の中に入っていたミネラルウォーターをペットボトルごとラッパ飲みをしている浅井の側に寄り、児玉は他の者には判らないよう、浅井に何かあったのかと聞いた。

「浅井さん、隠さず何があったかを教えて下さい」

「……」

「私達の事で状況に変化があったんですね?何があったか、おっしゃって頂けませんか?こんな年寄りだから、力にはなれないかも知れません。ですが、当事者である私達には、何があったかを知る権利があります。もし何でしたら、私一人だけの胸に収めて置きますから……」

 児玉にしつこい程聞かれ、浅井はやっと口を開いた。そして、起こった事のあらましを全て話したのである。

「澤村さんは死んだかも知れないですね?」

「自分の目で確かめた訳ではありませんから、はっきりそうだとは言えません。
奴の事ですから、上手く逃げてくれたかも知れませんが、まだ電話一本来てません。あの状況では……」

「そうですか……」

 奥の部屋にいた松山が二人のやり取りを遠目に眺めている。

 松山の表情は、何かあった事を感づいたような色を見せている。

 それを察したのか、浅井は、

「とにかく、自分は直ぐさま人を集めて次の手を……」

「私達も別な場所に移動した方がいいでしょうか?」

「そうですね、それも早急に当たってみます。それ迄は、念を押すようですが、絶対にこの部屋からは出ないで下さい」

「判りました」

 浅井は、飲み切ったペットボトルを投げるようにゴミ箱に捨て、走るようにして去って行った。

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