明日なき狼達
 児玉は野島に促されて、自分が思いついた考えを話し始めた。

 梶と加代子は自然と部屋の隅へ行き、児玉が他の者達に話してる光景を冷ややかに見ていた。

「あらあら、あたしは皆にフラれて、残った相手が冴えない元弁護士と来たか……」

「……」

 児玉の案はこうだった。

 自衛隊の駐屯地に、見学の申し込みをする。児玉がOBだから、その辺は簡単に手続きが出来ると言う。駐屯地見学の一行に成り済まし、武器庫へ侵入。必要な物を手に入れたら、逃走。

「自衛隊側に気付かれたら、本当の戦争になりますね」

「それは心配ありません」

「……?」

「心配無いってどういう事ですか?」

「100%発砲される心配が無いんです」

「えっ?そうなんですか?でも、入口なんかには銃を持った隊員が警備してるじゃ無いですか?」

「彼らの自動小銃には実弾は入っておりません」

「まさか?」

「いや、言われてみれば、昔何処かでそういう話しを聞いた記憶がある。法律かなんかでそうなってるんですよね?」

「はい。海外派遣の時も問題になりましたが、自衛官個々には発砲する権利が無いんです。どんな状況下であっても、上からの使用許可が無ければ無断には発砲出来無いんです。特に国内ならば尚更の事。例えそれが自らの駐屯地内であってもです。下手をすると空砲による威嚇射撃すら、独断では行えません」

「でも、武器を奪われたとなると話しが違って来るのでは?
 昔ならいざ知らず、今はテロ対策法とかもあるし……」

「あんな法律は名前だけで、実際には緊急事態に適してません。仮に部隊の最高責任者が使用許可を出したとしても、その時にはもう奪った武器を手にして逃げた後です」

「何だか児玉さんの話しを聞いてるとえらく簡単に事が運びそうに思えて来る」

「まあ、そう簡単でもありませんが、段取りをきちんと踏まえれば」

「作戦次第という事ですな」

「ええ」

「何が作戦さ、ほんと男って幾つになっても単純で後先考えないんだから」

「姐御は、梶の面倒でも見ててくれればいいんだ」

「片チンバが一端の口をきくんじゃないよ」

 それから一時間余り児玉は手順を説明した。

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