明日なき狼達
 浅井にマイクロバスと運転手を手配して貰う事にした。

 狙う駐屯地は習志野の空挺第一師団。

「どうして習志野にしたんですか?確か都内にも駐屯地はありますよね?」

「ある事はありますが、一応危険度の少ない場所がいいと思いまして」

「習志野の方が安全何ですか?レンジャーとかが居て、寧ろ可能性が低いように思えるんですが……」

「確かに隊員の戦闘能力から言えばそうなりますが、都内の駐屯地には、テロ対策用の近接戦闘専門部隊が配備されてますから、流石に近付くのはと思いましてね。それに習志野なら私の庭みたいなものですから、何処に何があるかが判ります」

 逃走経路も細かく指示して、後は滝沢にどう接近して行くかを考えるだけであった。

 児玉達を浅井が隠れ家を見つけてそこを襲い、身柄を確保したという話しを滝沢が何処迄信用してくれるかが成功の鍵と言える。

「なんだろね、まるでランボー気取りだよ」

 加代子が横で俯いたままの梶に話し掛けた。床に直接腰を降ろし、膝を抱えている梶の姿は、まるで敗残の老兵といった体であった。

「脳天気にはしゃいじゃってさ、あんた達、自分達だって銃に撃たれて死んじまう事があるって判ってんのかい?」

「座して死を待つなんて事は出来ねえんだ」

「そういう事」

「あんた達はそれでいいだろうけどさ、残ったあたしと梶は何処へ逃げりゃいいのさ」

「それはうちが責任を持って逃がします」

「だとさ。ねえ、聞いてんの?」

 梶は加代子からの問い掛けにも答えず、ずっと俯いている。そして、突然立ち上がり、

「トイレ……」

 と一言だけ言った。

 用を足しながら、梶はまるで別な事を一人考えていた。

 トイレを流し終わり、廊下に出ると、皆、梶の事など気にも掛けずといったふうであった。梶の足は皆が居る方へは向かず、玄関へと向いた。そっと靴を履き、音がしないようにドアノブを回した。

 マンションの廊下には、普段居る筈である見張り役の浅井組の若い者が居ない。

 梶はエレベーターには乗らず、非常階段を一階迄降りた。マンション入口横から梶は外へ出た。久し振りの外気だった。


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