明日なき狼達
 梶が居なくなった事に気付いたのは、かなり時間が経ってからであった。

「馬鹿な薄らハゲだよ」

「家族の所にでも帰ったのかな」

「やっこさんは確か一人者だよ」

「まずいな……」

 児玉の言葉に頷いた浅井は、すぐにケータイで若い者を呼び出し、梶の行方を追わせた。

「今こんな時に外に出たら、滝沢達の手下に見つけてくれって言うものだぜ」

「まさか警察に保護を求めたりとかは……」

 神谷の言葉に野島は、

「警察にしたって決して安全じゃねえ。下手すると警察にも滝沢の手が回っている可能性だってある」

 と言った野島は、十数年前に自分が関わった猥褻暴行事件を思い起こしていた。

「急がないと」

 松山がそう言うと同時に、部外者顔していた加代子まで慌てて立ち上がり、皆と一緒に自分の部屋へ戻って身支度をし始めた。

 ものの数分で、梶を除いた全員が、浅井の先導でマンションを後にした。取り敢えず、次の隠れ家が手配出来る迄の間、車で逃げる事にした。

 ワゴン車で首都高を走っているうちに、加代子がいきなり素っ頓狂な声を上げた。

「やだよ、あたしったら、すっかり忘れてた」

「どうした姐御、あの部屋に何か忘れ物でも?」

「違うよ。あたしの持ち家が偶然にも皆が行きたがってる習志野にあるのさ」

「姐御の資産とか家は全部差し押さえられたんじゃないのかい?」

「何年も前に譲り受けた別荘でね、ゴルフ場に隣接した家なんだ。ここんとこゴルフなんて行ってなかったから、自分でも忘れてたのよ。そこなら隠れるにも最高だと思うわよ」

「でも、姐御の持ち家なら既に相手も判ってるんじゃないの?」

「それは無いと思う」

「何故?」

「だって、名義は全然違うもの。元々、税金逃れの為に手に入れたものなんだけど、ダミーの会社を昔付き合っていたホストに名乗らせて手に入れた家だったのよ。間抜けな話しだけど、ほんと、習志野って地名を聞いてやっと思い出した位、殆ど使ってなかったから」

「その家を知ってる人間は何人?」

 児玉が聞いて来た。

「誰も」

 浅井と児玉は見つめ合い、頷き合った。

 車は習志野に向かった。



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