明日なき狼達
 漸く身体を起こした梶は、自分の両手に血がべったりと付いているのを目にして再び腰を抜かし、へたり込んだ。

 お、俺が人殺し……

 目の前に横たわる男の身体からどす黒い血が流れ、地面に大きな溜まりを作っている。

 サイレンが遠くから聞こえて来た。

 我に返った梶は、その場から逃げるべく走り出した。路地を曲がった途端、もう一人の尾行者と出食わした。

 相手は髪を振り乱し、悪鬼の表情で梶を睨んでいる。

 言葉に言い表せない程の恐怖感に全身が震えた。

 ニヤリと男が笑う。

 竦み上がって動けなくなっていた身体を、梶は必死で動かした。何をどうしたかまるで覚えてなかった位、必死で死というものから逃れた。

 転がるようにして路地から路地を逃げ惑う。途中、通行人とぶつかり、その都度悲鳴が上がる。

 広い通りに出た瞬間、二人の若い制服警官と遭遇した。

 梶を追っていた男が手にしていたナイフを見て、警官は直ぐさま腰の拳銃に手を掛け、男を威嚇した。

「ナイフを捨てて大人しくしなさい!」

 警官の言葉に従うかのように見えたが、男はナイフを投げつけた。投げられたナイフに気を取られた隙に、男は二人の警官に襲い掛かった。

 予想外の行動に出られた二人の警官は、完全に虚を突かれた。若い二人の警官はあっという間に倒され気を失ってしまった。

 男は警官の腰から拳銃を奪った。

 梶は、男と警官が揉み合っている隙に大通りを縦断し、その場から逃げる事が出来た。

 騒ぎを聞き付け、多くの野次馬が遠巻きに集まり始めている。野次馬を掻き分けながら応援の警官達が現場に急行しようとして走っている。

 人混みに紛れながら、梶はタクシーを拾った。

 一度は止まったタクシーだったが、梶の様子が尋常では無いと感じた運転手は、ドアを一旦開けながらも、梶を乗せずに走り出そうとした。

 梶は走り出すタクシーのドアにしがみつき、無理矢理乗り込んだ。

「ぎ、銀座に行ってくれ!」

「は、はいっ!」

 梶はケータイを取り出し、児玉に電話をした。

「今、殺されそうになった、タクシーでそっちに向かってるんだ。助けてくれ!」

 タクシーはスピードを上げ、銀座方面へと走った。

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