明日なき狼達
 梶の上着に何箇所か切り裂かれたような部分を見て、加代子は急いで上着を脱がせた。

 ワイシャツが大きく口を開き、傷口がザックリと割れているのが判った。

 慌てる加代子をよそに、梶はまだ呆けたように立ったままでいる。

「児玉さん、手当てして上げて!」

 加代子に言われるまでも無く、児玉は梶の傷を見て、直ぐに手当てをしなければと思った。

 家具も何も無い無機質な部屋の中央に、寝袋が敷かれ、そこに梶は寝かされた。

 傷は大きいものが二ヶ所、かすり傷程度のものが三ヶ所あった。余り深くはなかったから、晒できつく巻けば大丈夫だろうと児玉は見た。

 手当てをしてる間中、野島や神谷がいろいろと質問したが、梶は何も答えず黙ったままだった。

 浅井が新しい着替えと食糧を運んで来た。梶はミネラルウォーターを一息に飲み、そこで初めて口を開いた。

「皆、何をもたもたしてる」

 最初、皆、その言葉の意味が判らなかった。

 それが自衛隊の駐屯地を襲う事だと判った時、その後に続いた梶の言葉に野島は目を丸くした。

「やるなら早くやらないと、滝沢に先にやられちまう……」

「梶さん……」

「奴らは街中だろうが人込みだろうが、とにかく俺達を見たら殺しに掛かる。警察が関わろうがお構い無しだ」

 浅井の若い者が、携帯ラジオのボリュームを上げ、ニュースを流した。

「梶さんの事らしい事件がニュースでやってるよ」

 加代子が言う。

 ニュースでは警官が何人か怪我をしたと言っている。梶に殺された男の事は話していない。襲って来たもう一人の男の行方は未だに不明のままだ。

「このままやられっぱなしで逃げ回るのはゴメンだ。児玉さん、どう手筈を?」

 今や誰よりも急先鋒の様相を見せている梶であった。

「明日、習志野の駐屯地に見学を申し入れ、そこで武器を奪います。その足で浅井さんが私達を滝沢側に引き渡す、段取り的には問題無いと思いますが、危険は避けられません」

「成功の見通しは?」

「全てのものに100%という事はありません」

 皆、児玉の言葉に頷いた。

「賽は投げられた、か……」

 野島がぽつりと呟いた。
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