明日なき狼達
「動くな!」

 遠くから声が聞こえる。

 児玉はカーゴから89式自動小銃と実弾が入ったマガジンを手にした。

 実弾の装填の仕方は64式と変わらない。

 引き金横の安全装置レバーを親指で解除し、3点バーストの位置迄それを下げた。

 旧64式は、単発と連発の二段階にレバーがシフトされていた。

 89式は、連発が無い代わりに3点バーストと言って、一回引き金を引くと、3発発射される仕組みになっている。これは、無駄な射撃を無くす為のものである。連発であると、引き金を一度引き絞ってしまうと、あっという間に弾倉内の弾が撃ち尽くされてしまう。自分が撃った弾が正確に標的に向かっているのかも判らなくなってしまう。

 3点バーストなら、もう一度引き金を引かない限り、それ以上は発射されない。最初の3発で射線を確かめ、修正し、第二射を浴びせる。

 児玉は教科書通りにその動作をした。

 しかし、それは当てる為では無く、当たらないように撃つ為の動作だった。

 3点バーストで10斉射程した。

 自衛隊員達は、生まれて初めて体験する実弾の洗礼に身をすくませていた。

 松山は金網にそのままカーゴを発進させた。地面の土を高く巻き上げ、ダッシュが掛かったサイのように突進したカーゴは金網を突き破り、道を突っ切って空き地で止まった。

 児玉が走って来る。

「積み直す余裕は無い!皆、そのまま逃げましょう!」

 松山はギアをバックにし、カーゴを道の方に戻した。

 浅井達もトラックに乗り込んだ。トラックとカーゴは、児玉の指示で予定の逃走ルートをひた走った。

 児玉は自分の腕時計を見た。変電施設を爆破してからまだ5分と経っていない。

 自衛隊の敷地を出てしまうと、こういった場合の逮捕権とかは、現状では警察に移行する。

 自衛隊自身が出動出来るだけの法律が無い。テロ対策法などは、真の緊急時には役立たない法律だ。

 5分ならまだ非常線は張られていない。

 トラックとカーゴは幹線道路を避けて、予定の地点へと向かった。

 東京と千葉の境を越えた頃、漸く警察の非常線が各幹線道路に張られた。

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