明日なき狼達

戦いの前に……

 滝沢と連絡するのは夕方を過ぎてからにする事にした。

 浅井は一刻も早くと主張してなかなか譲らなかったが、児玉は、

「今、外に出たら検問の餌食になります」

 と言った。

「検問なら夜になってからの方が厳しくなると思うのですが……」

「時間が経つと、検問をしている人間達に油断を与える事になる。だろう?」

 児玉は野島に頷きながら、

「まあ、それもありますが、滝沢に焦りを生じさせる狙いもあります。梶さんが襲われた時点で、ひょっとしたら銀座のマンションも相手側に知られたかも知れません」

「それがもぬけの殻になり、梶の旦那を襲ったうちの一人は死んだ……。
 事件は全国規模でニュースとなり、俺達の行方を捜すのに益々焦りが生じて来ている。そこに付け込む……といった所ですか?」

「そういう所です」

「それはいいけどさ、仮に滝沢の所に上手く入り込めて、澤村も生きてるまま助けられたとしてその後はどうなるの?
 これだけの事をしたら、相手を殺さなかったとしても、絶対、刑務所送りになっちまうよ。この歳で刑務所なんか行っちまったら、二度と娑婆の空気は吸えなくなるじゃない」

「姐御、後の事なんかどうだっていいんだ。滝沢をこの世から消し去る事が出来さえすればいいのさ」

 梶の以前からの姿からは想像出来ない言葉が出て来た。

「全共闘の闘士が平成の世に蘇った、か。」

 神谷が笑みを浮かべながら梶に言う。

 梶はそれに答えず、部屋の隅で壁にもたれ、両目を閉じた。その姿は、まるで戦場でしばしの休息をとっている兵士のようだった。

 食料の買い出しに行っていた二人が戻って来た。

「さっきからパトカーが頻繁に行き来してます」

 不安気な態度を隠せずにいる。

「お前ら、念の為に交代で外の見張りをしてるんだ」

 浅井に命じられて二人は再び外へ出て行った。

「さ、腹拵え腹拵え。あらやだ、ろくな物買って来てないじゃん」

 コンビニの袋からパンや弁当を取り出しながら加代子がぼやく。

 浅井が皆に食べ物を配り、児玉の横に座った。

 何か言いたげだ。

 それを察した児玉が、

「煙草、ありますか?」

 と先に声を掛けた。

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