明日なき狼達
「梶さんよ、どういう心境の変化なんだ?」

 コンビニの弁当をガツガツと食べながら、野島が傍らで缶珈琲を飲んでいた梶に聞いた。

「答えなきゃ駄目か?」

「日和見を決め込んで、マンションから一人飛び出しちまったあんたが、いくら滝沢の手に命を狙われたからといって、そうそう考えを変えるなんて信じられなくてな」

 梶は缶珈琲を飲み干して聞き取れない程の小声で答えた。

「あんたの場合は積もり積もった私怨だろうが、僕の場合はそれとはちょっとばかり違うんだ」

 梶の言葉に野島は一瞬、嫌な顔を見せた。

「私怨なら俺だけじゃないぜ。加代さんなんか自分の全財産を持っていかれた怨みだし、松山は殺さなくてもいい殺しをやっちまって、長いムショ暮らしの怨み……澤村や浅井にしても、これだけ肩入れしてくれてんのは、ヤクザ世界に於ける自分達の存在の危機が感じられたからこその肩入れだし。判んねえのは、神谷と児玉さんだけどな」

「私の事ですか?」

 神谷が右足を少しばかり引きずりながら二人の側に来た。

「神谷、聞こえてたのか?」

「ええ、しっかりと」

「ならば聞くが、神谷はどういう理由でなんだ?
 初めは加代さんの腰ぎんちゃくでくっついてんのかと思ったんだが、どうもそれだけじゃなさそうだしな」

「右足を撃ち抜かれた怨み、というより、私の場合は野次馬的気分からですよ」

「高見の見物を決め込んだって、誰も文句は言わねえのに…随分と高くついた野次馬料になっちまったな」

「いえいえ、四十年前の敵討ちだと思えば決して高くはありませんよ」

「四十年前の敵討ち?」

 神谷の代わりに梶がそれに答えた。

「権力との戦い……でしょ?」

「ええ。梶さんもじゃないですか?」

「まあ、そんなところです。」

「四十年前は国家権力に反抗し、今は闇の権力に反抗かぁ。俺は、ずっと体制の側に居た人間のつもりだったが、結局は体制にコミット出来ない人間だったようだ。みろ、俺だって私怨じゃなく、あんたらと同様、反体制の精神でだな、今回の事を……」

「私怨だろうが何だろうがいいじゃないですか。こうして共に闇の権力に正面からぶつかろうとしてるのですから」

 この日一番の笑顔を野島は見せた。

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