明日なき狼達
 三人の会話を聞くとも無しに耳を傾けていた加代子は、ずっと表情を変えずに銃の手入れをしている松山に話し掛けようとした。が、松山の近寄り難い雰囲気に言葉を飲み込んでしまった。

 松山の方が加代子に気付き、逆に声を掛けて来た。

「加代子さん、どうしました?」

 松山なりに気を使い、先に声を掛けた訳だが、加代子はその気遣いが以外に感じた。

 松山の印象は、そういった繊細さを感じさせないものがあったからだ。

「あんた、見かけに寄らず優しいんだね」

「はあ?」

「いいのよ、あたしが勝手に思ってるだけの事だからさ。ねえ……」

「はい」

「奥さんとか、好きな人は居たの?」

「女、ですか?まあ、務めに行く前にはそれなりに居ましたが」

「別れちまったのかい?」

「十年以上も待たせとく訳にも行きませんでしたから……」

「ふぅぅん、そんなもんかねぇ。」

「自分のようなヤクザにどうしてくっついちまったのか、正直、今でも判らないんですけどね。良かったんじゃないんでしょうか。ヤクザをやってるような男は、所詮ろくな最後を迎えられませんからね」

「そうかも知れないけどさ、それでも惚れてくっついたって事はさ、並の愛し方じゃないと思うんだけどなぁ」

「……」

「あんたはさ、十何年も待たせるのが忍びないから別れたみたいな言い方してるけど、本当にその相手は納得していたのかい?
 納得してなかったかも知れないんじゃないの。女ってのはさ、愛し続けられる相手が居れば、どんな苦労だって出来るもんなんだよ。待つ事だって、相手の運命を背負う事だってさ」

「加代子さんにとっては殺された青山が?」

「やだよ、あの野郎はあたしの見る目が無かっただけさ。ふふふ、見る目はずっと持って無かったなあ、て、あたしの事はどうでもいいの。今はあんたの話ししてんだから、はぐらかさないでよ」

 松山は妙に加代子が可愛いく思えて来た。

 この人は、ずっと本気で好きになれる相手に出会っていなかったんだな……

「何?あたしの顔に何か付いてるかい?」

「いや、何だか可愛いなって」

「やだ、こんな皺だらけの婆をからかって……」

 加代子は柄にも無く顔を赤らめた。

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