明日なき狼達
 バーの女は怪訝そうな顔をして二人のやり取りを見ている。

 その視線に気付いた野島が、

「梶先生、場所をかえませんか?」

 と言った。

「そうしましょう」

 梶に依存は無かった。

 一人寂しく酔い潰れるだけの夜になりそうだったのが、こうして思わぬ邂逅を得る事が出来た。

 二人は互いの分の酒代を払い、外へ出た。

 当ては二人共無い。

 彷うように二人はうらぶれた飲み屋街を歩いた。

「東京もやたらと変わりましたな」

「そうですね。やたらと洒落た店が増えたのはいいのですが……」

「我々が落ち着いて飲める店が減って来ました」

「バブル以降からでしょうか」

「この辺りも大分地上げだの何だので様変わりしましたから……」

「多少残ってるのは、この先の一区画位のもんですか……」

「そういえば……」

 梶はふと思い出したようにその場に立ち止まった。辺りを見回し、何度か首を傾げながらも、

「この先だったかな?」

 と呟きながら歩みを進めた。

 野島は梶の後を黙って着いて行く。

 何本かの裏路地を行ったり来たりしながら、ある一区画に出た。周囲をビルに囲まれ、目立たぬように何軒かの飲み屋が集まっている。細い路地と路地に囲まれ、とても普通の人間なら歩きそうも無い場所だ。

「梶さん、ひょっとして、J&Jというバーをお捜しで?」

「知ってらっしゃるんですか?」

「ええ、本庁に勤務したばかりの頃、まだ安月給でしたからJ&Jは大酒飲みの私には有り難かった……」

「マスターが私と同期でして。ひょっとしたら、奴も貴方に木刀で……」

「旧敵ですか……」

「大学を中退して、学生運動にも愛想を尽かし、ヒモみたいな暮らしをしていたんですが、何時の間にか夜の世界に入りまして。
 なかなかいいバーテンダーになり、私が弁護士になった頃と同じ時期に店を出したんです」

「じゃあ、私が通っていた頃はオープンして間も無い頃ですね。それにしても、不思議な縁だ。よく、当時店で出会わなかったものですね」

「言われてみると確かにそうだ」

「あっ、あれじゃないですか?ほら」

 野島が指差した先に、古ぼけたJ&Jという名の看板があった。
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