明日なき狼達
 トラックは慎重に運転された。万が一、検問に引っ掛かったり、パトカーに停められでもしたら万事休すだ。

 運転している人間の緊張感が荷台にいる浅井や児玉達にも伝わって来た。誰一人として無駄口を言わない。一人一人の呼吸音すら聞こえて来る程の静寂さに包まれていた。

 突然、浅井のケータイがけたたましく鳴った。

「はいっ!」

(おい、今、何処だ。どうしてこっちに電話寄越さねえんだ!)

 三輪からだった。

 浅井が口だけを動かして児玉達に伝える。

「滝沢さんの方に一刻も早くと思いまして」

(バカヤロー!勝手な事すんじゃねえ!俺が滝沢さんから今回の件を任されてんだ。一言先に連絡すんのが筋だろうが!
 それより、澤村の野郎はどうした。全然連絡がつかねえぞ!)

「さあ、自分にはさっぱり」

(てめえら揃いも揃って眠てえ人間だなあ、えっ!
 滝沢さんから連絡貰ってなきゃ連中をてめえが捕まえた事を知らないままあっちこちまだ捜し回ってたんだぞ!とっとと渋谷に来いっ!)

「お言葉ですが、先程連絡したところ、すぐに連れて来てくれという事でしたので、もう向かっている最中です」

 ケータイの向こうから三輪の罵声が続く。

 浅井はそれを無視して切った。

「澤村の事はまだ組の方には伝わって無いようです」

「どういう事なんだ?」

 梶が問い返して来た。

「澤村が親栄会の人間だって事は知れてる訳なんだろ?
 なのに組には一言も話しが行ってないという事は、生きて奴らの手から逃げれたって事じゃねえのか?」

 野島の言葉に浅井が頷きながら、

「可能性は高いかと思います」

 と浅井が言うと、松山が首を振った。

「生きてはいるかも知れないが、奴らの手中にあるかも知れないという疑いはまだ残っている……逃げれたとすれば、どんな手を使ってでも俺達に連絡をする筈だ。冷静に考えれば、死んだか、捕われたかのどっちかだ」

 児玉が松山の言葉に頷いた。

「さて、そろそろ着くのではありませんか?」

 児玉に促されて、浅井は滝沢に連絡をした。

 電話に出た男は、無機質な喋り方をする男だった。

< 152 / 202 >

この作品をシェア

pagetop