明日なき狼達
(環七を赤羽方面に向かって下さい。そこから浮間橋方面に向かうとJRのガードが見えて来ますから、そこにこちらの者を迎えにやらせます)

 相手は一方的に伝えると電話を切った。

「滝沢のアジトは埼玉か?」

 浮間舟渡を越えると埼玉県戸田市だ。

「合流地点迄はどの位だ?」

 浅井が運転席の若い者に聞く。10分という答が帰って来た。

「じゃあ、準備しますか」

 児玉がそう言うと予め用意してあった紐で、それぞれの手を縛り始めた。結び目だけは、各自の手の中にし、簡単に解けるようにしてある。神谷が何度も自分で解く練習をしている。

「見えました」

 運転席から緊張で高ぶった声が飛んで来た。

「お前ら、落ち着くんだぞ」

 ガード下は、そこだけ車線が登り下り共余分に作られており、脇に一時停車が出来る。

 止まっている車は二台。いずれも黒塗りの高級車だ。そのすぐ後ろにトラックが停車すると、黒塗りの高級車から一人の男が降りて来た。

 郷田であった。

 梶の顔面が見る間に青醒めていた。

 郷田がゆっくりと近付いて来た。荷台の方に回り、幌をめくる。

 一番奥に居た児玉の顔を見ると、一瞬小首を傾げたが、児玉と気付くふうも無く浅井を呼んだ。

「あの車に付いて来て下さい」

 電話の声と同じ、無機質な喋り方だった。

 郷田がケータイを取り出し、電話をし始めた。

「……ええ、間違いありません。頭数も揃ってます。では……」

 電話を切り車に乗り込むと、後ろも振り返らずに車を発進させた。

 先導する二台の車は、浮間橋の方には行かず、真っ直ぐ志村方面に進んだ。

 左手に桐丘団地を見ながら二台の高級車とトラックは走り続けた。志村坂上に入る前に、先導の車は左に曲がり、更に細い道を何度か曲がった。

 漸く車が停まった場所は自動車の解体工場の跡地だった。車が停車した音を聞き付け、工場の廃屋から数人の男が出て来た。出入口のゲートを開け、車とトラックを招き入れた。敷地内に入ると、解体され、潰された車の残骸の山に囲まれた建物が現れた。

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