明日なき狼達
 児玉は拳銃の弾を撃ち尽くすと、担架に隠してあった90式を手に取った。

 七十歳を越えた年齢とはとても思えない程、彼の動作は機敏であった。

 セーフティーレバーを一番下に下げると同時に引き金を引いた。

 解体された廃車や建物に弾丸が当たり、破片を飛び散らかす。聴覚が麻痺する程の音が鳴り響く。

 血飛沫と肉片が極彩色の噴水と化している。

 郷田が見当たらない。

 建物の中に入ったのだろうか?

 郷田以外の男達は既に全員倒れていた。

 浅井が建物の中に入ろうとしている。

「入っちゃ駄目だ!」

 児玉の叫び声に浅井は立ち止まった。

 野島がドアに向けてイングラムの銃口を向けた。

 89式とは違う、モーター音に似た連続音を響かせ、ドアに無数の穴を開けた。

 児玉がドアに体当たりをして、中に飛び込んだ。

 児玉の数センチ横を弾が掠めて行くのが判った。

 銃声のせいで聴覚が麻痺していたから、相手の銃の発射音が聞こえない。奥にある部屋の扉越しに相手は撃って来ている。

 浅井が続いて飛び込んで来た。

 野島が入口の側でイングラムのマガジンを交換している。その野島に相手の弾が命中した。もんどりうって倒れた野島に、梶と神谷が近寄る。

 梶が何か喚いているがよく聞き取れない。

 防弾ジャケットを着込んでいる筈だが、腕や足、それに首から上は無防備だ。

 何処に当たったんだ?

 児玉は奥から撃って来る相手の銃口の閃光を狙って引き金を引いた。

 弾倉に残っていた弾丸を全て撃ち尽くした。

 閃光が消えた。聴覚が戻って来た。

 浅井が奥の部屋に近付いて、破壊された扉の向こう側に向けてブローニングを撃った。

 銃声が止んだ。

 児玉が野島の側に行った。

「脇腹が痛え……」

 背広の下に着込んでいた防弾ジャケットの左横が焼け焦げたようになっている。幾重にも重ねられたカーボンファイバーの生地が削られたようになっていた。

 防弾ジャケットを脱がしてみると、左脇腹が内出血していた。

「息は出来ますか?」

「大丈夫、大丈夫だよ」

「肋骨が折れてるかも知れませんね」

 と、奥の部屋から浅井の声がした。


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