明日なき狼達
「児玉さん!」

 浅井の側に行くと、足を撃ち抜かれた男が一人横たわっていた。息も絶え絶えといった感じだが、児玉が見たところ、男の怪我はそうたいした事はなさそうだ。弾丸は男の両膝を砕いていた。柘榴のようになった膝から、肉と骨が剥き出しになっている。

 男は泣きながら、

「助けてくれ」

 と繰り返した。

 郷田の姿は無い。

 奴は逃げたか……

「おいっ、他にいないのか!」

 浅井が男の胸倉を掴み、揺さ振りながら怒鳴った。

「滝沢は何処だっ!」

 男は泣き叫ぶばかりで、何も答えなかった。苛立った浅井は、男の砕かれた膝を踏みつけた。

「ギャアァァーッ……」

 気を失いかけるところを、浅井は平手打ちをして再び聞いた。

「滝沢は!人質も居るだろっ!どうなんだ!」

「や、やめてくれぇぇ。言う、判ったから、言うから止めてくれぇ……」

 男はあっさりと根を上げた。

「こ、此処には居ない」

「何処だ、何処なんだ!」

「せ、世田谷……」

「世田谷の何処だ!」

「頼む、は、話すから、先に怪我の手当をしてくれ……」

「この野郎、甘ったれてんじゃねえ!」

「浅井さん、此処で何時迄も時間を潰してる訳にはいかない。この男に案内させて、滝沢のアジトにすぐに向かいましょう」

 児玉の言葉に納得した浅井は、男を肩に担いだ。

「野島さん、立てますか?」

「ああ、大丈夫だ」

 梶が肩を貸そうとすると、野島はそれを断り、脇腹を摩りながら立ち上がった。

 松山が外で立ち尽くしていた。足下を見ると、浅井の若い者が倒れている。

 松山の目は、死んだ若者の姿をじっと見つめていた。

 その目は悲しげとも違う、我を忘れたかのようなものだった。

 神谷が声を掛けると漸く我を取り戻し、憐れみの色を宿したまま、その場を離れた。

「さあ、乗るんだ」

 浅井が男をトラックの荷台に押し上げた。

 トラックは浅井が運転する事にした。

 全員が乗り込んだ。トラックは轟音を残して走り去った。


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