明日なき狼達
 その場所に近付くにしたがい、男は病院に連れて行けと益々騒ぎ立て始めた。それに苛立った野島が、何度も怒鳴り、終いには黙らせようとして暴力を振るう勢い迄見せた。

 神谷が必死で止め、野島を宥めすかした。

「野島さん、その怒りをぶつける相手は滝沢ですよ」

「こいつはその手先なんだ。俺達を殺そうとしたんだぜ。防弾ジャケットを着てたから肋骨をやられただけで済んだが、これを着てなかったら俺はあの世行きだったんだ」

「野島さん、それを言うなら私は生でこの足を撃たれてるんです」

「バカヤロー!それを言うんなら、俺は指も持ってかれてんだ!」

 そう言って左手を広げた。

 野島の剣幕に男は震えた。

「着きましたよ」

 トラックが止まり、松山が野島の腕を取って男から引き離した。

 児玉が全員に自動小銃と、予備弾倉が入った弾薬帯を配った。

「梶さん、引き金には指を掛けない方がいいですよ。89式は割とトリガーが軟らかいですから、セーフティーレバーを下げた状態だと、近くに居る仲間に誤射したり、自分の足を撃ってしまう事がありますから。
 野島さん、イングラムを撃つ時は、引き金を引きっ放しにしてはいけません。
拳銃を撃つ時の要領で、ワンショットずつ引かないと、弾倉はあっという間に空になってしまいます。
 神谷さん、先程は予備弾倉の交換に手間どってたようですが、ここをこうして、レバーを引いて下さい」

「前にも同じ事を言われたんですが、実際に撃ち合いになってしまうと……」

 児玉は一人一人にもう一度、銃の扱い方をレクチャーした。

 手榴弾を入れた雑嚢を肩から襷掛けに背負うと、それを見た松山も同じようにした。

「結構重いんですね」

「対人用の手榴弾ですから、投げる時は距離間に充分注意して下さい」

 準備が出来ると、浅井が、

「児玉さん、なんか静か過ぎませんか?」

 と、運転席から言って来た。荷台から児玉は身を運転席に乗り出し、じっと外を見た。

 50メートル程前方に三階建ての病棟がある。クリーム色のその建物は、まるで巨大なショッピングモールのような佇まいを見せていた。

 その周囲を鬱蒼とした木々が囲み、不気味な静けさを漂わせている。

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