明日なき狼達
 浅井にそのままでと言って、児玉は自分だけトラックから降りた。

 89式を何時でも撃てるように構え、じっと周囲を窺う。

 確かに静か過ぎる。

 微かに林がざわめいた。

 風はそよとも吹いていない。

 児玉は片膝立ちで銃を構え直した。何かが動いたと感じたと同時に、児玉の指は反射的にトリガーを引いていた。そして、林の方からもトラック目掛けて一斉に銃弾が飛来して来た。

 静寂が一転して破壊された。

 飛び交う銃弾と怒号の中で、児玉は無我夢中で皆に指示を与え続けた。

 浅井が運転席から転がるようにして外に飛び出した。トラックのタイヤに身を隠しながら応戦している。

 いつの間にか、児玉の後ろに松山と野島が付いていた。

「野島さん、荷台に居る梶さんと神谷さんを連れて、右側を進んで建物の入口へ。絶対に立ち止まらずに走り続けて下さい!」

 三人は、タイミングを見計らい、一気に走り出した。

「浅井さん、援護して!」

 イングラムを撃ち尽くすと、弾倉を交換するのももどかしいといった具合に、自分のブローニングを撃ち続けた。

 野島達が玄関先に辿り着いたのを見て、児玉と松山が走り出した。

 浅井もイングラムの弾倉を交換するや否や、射撃しながら立ち上がった。

 飛来した弾が浅井の左腿を掠めた。

 ぐらつく浅井。

「浅井さんっ!」

「止まらないで!」

 松山が後ろを振り返ろうとする。

 児玉の怒声が響く。

 雑嚢から手榴弾を取り出し、林に投げ込む。

 凄まじい爆発音が耳をつんざく。

 悲鳴が次々と聞こえて来た。

 心臓が張り裂けるのではないかと思える位に鼓動が激しい。

 硝煙の匂いと銃弾の飛来音。

 何もかもが非現実的な映像のように、松山の両目に映った。

 児玉と松山が滑り込むようにして玄関先に辿り着いた。

 浅井はまだトラックを盾にしている。

 距離にすれば僅か10メートル余り。だが、その間を何十発という弾が飛来している。

「浅井さん!」

 児玉が呼ぶと、頷いた浅井はイングラムを撃ちながら走り出した。

「今だっ!」

 一斉に林の方に銃を撃った。

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