明日なき狼達
遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえて来る。
神谷はうたた寝をしていた。
夢の中なのか、現実の世界なのか、自分の脳味噌は判別をしてくれていない。
神谷……
神谷、起きろ……
酒飲ませないのかぁ……
女の声のようだ。
何処と無く聞き覚えのあるしゃがれ声。
そんな筈は無い……
あの女がまさかこの店に……
微かに聞こえていた声が、段々と鮮明になって来た。
「バカヤロー!あたしを無視するなんて百年早いんだよ!たく、どいつもこいつも……」
やはり、間違い無い。
何年、いや、何十年振りに聞くだろう……
ぼうとしながらも、神谷は思い出し始めていた。
身体を起こし、狭い階段を注意深く下りた。
店の電気を点けると、
「この唐変木がぁ!昔はさんざんあたしの身体の上で腰振ってたくせに……早く開けろ!」
と、扉が壊れるかと思う位に叩かれていた。
「判った、今開けるから静かにして……」
扉を開けると、紛れも無く加代子が立っていた。
「遅いんだバカヤロ……」
かなり酔っているようで、呂律も回らず、足元も定かではない。
「久し振り……」
「へん、相変わらずしけた店だこと、飲みに来てやったぞ!」
ふらつく加代子を椅子に座らせ、取り敢えずは水を飲ませた。
「ブハァーッ、バァカ、これ水じゃねえかよ。あたしは酒を飲みに来たの、さ、け、を……ブランデーでもウイスキーでも何でもいいから、早く出して、早く!」
神谷は何も言わず、棚からオールドパーを取り出した。
グラスに入れようとしたが、一旦思い直した。
どうせ明日になればこの店は……
オールドパーを元に戻し、神谷は棚の奥からまだ封の切っていないボトルを取り出した。
この店でこいつを飲んでくれる客はついに一人も現れなかったな……
ペーパーナイフでキャップの封を切り、磨き上げられたグラスにその液体を注いだ。
加代子の前にそれを差し出すと、彼女はカウンターに俯せになり、寝息を立てていた。
神谷は苦笑いをしながら、そのグラスを自分の口元へ運んだ……。
女の寝顔がやけに悲しげだった。
神谷はうたた寝をしていた。
夢の中なのか、現実の世界なのか、自分の脳味噌は判別をしてくれていない。
神谷……
神谷、起きろ……
酒飲ませないのかぁ……
女の声のようだ。
何処と無く聞き覚えのあるしゃがれ声。
そんな筈は無い……
あの女がまさかこの店に……
微かに聞こえていた声が、段々と鮮明になって来た。
「バカヤロー!あたしを無視するなんて百年早いんだよ!たく、どいつもこいつも……」
やはり、間違い無い。
何年、いや、何十年振りに聞くだろう……
ぼうとしながらも、神谷は思い出し始めていた。
身体を起こし、狭い階段を注意深く下りた。
店の電気を点けると、
「この唐変木がぁ!昔はさんざんあたしの身体の上で腰振ってたくせに……早く開けろ!」
と、扉が壊れるかと思う位に叩かれていた。
「判った、今開けるから静かにして……」
扉を開けると、紛れも無く加代子が立っていた。
「遅いんだバカヤロ……」
かなり酔っているようで、呂律も回らず、足元も定かではない。
「久し振り……」
「へん、相変わらずしけた店だこと、飲みに来てやったぞ!」
ふらつく加代子を椅子に座らせ、取り敢えずは水を飲ませた。
「ブハァーッ、バァカ、これ水じゃねえかよ。あたしは酒を飲みに来たの、さ、け、を……ブランデーでもウイスキーでも何でもいいから、早く出して、早く!」
神谷は何も言わず、棚からオールドパーを取り出した。
グラスに入れようとしたが、一旦思い直した。
どうせ明日になればこの店は……
オールドパーを元に戻し、神谷は棚の奥からまだ封の切っていないボトルを取り出した。
この店でこいつを飲んでくれる客はついに一人も現れなかったな……
ペーパーナイフでキャップの封を切り、磨き上げられたグラスにその液体を注いだ。
加代子の前にそれを差し出すと、彼女はカウンターに俯せになり、寝息を立てていた。
神谷は苦笑いをしながら、そのグラスを自分の口元へ運んだ……。
女の寝顔がやけに悲しげだった。