明日なき狼達
 数メートル先で血飛沫と肉片が散った。

 児玉が死体に近付いた瞬間、松山が児玉の身体を突き飛ばして来た。

「うっ!」

 銃声と同時に松山の身体が独楽のように回転した。

 児玉は素早く腰の拳銃を抜き、躊躇う事無く背後の敵に弾丸を浴びせた。

 相手が倒れた事を確かめると、松山の様子を窺った。

「大丈夫ですか?」

「ええ、これを着てましたから……」

 防弾ジャケットを着込んでいても、至近距離から銃弾を浴びればかなりの衝撃だ。

 野島のように、肋骨の一本や二本折れてしまう位ならまだましな方だ。当たり具合が悪ければ、内臓を破裂させてしまう事もある。だが、致命傷は免れる。

 息が詰まる。

「じ、自分は大丈夫です。それより、早く澤村を……」

「動けますか?」

「はい」

 上体を起こすと胸全体が軋むような痛みを感じた。

 目の前の死体に目をやると、腰に鍵束がぶら下がっているのが見えた。

「児玉さん、その鍵、ひょっとして……」

 児玉も松山が言わんとしている事が判った。

 鍵束を急いで外す。

 再び足音が聞こえて来た。

 89式の予備弾倉をすかさず交換し、銃口を踊り場へと向ける。

 上の階で激しい銃撃音が響いて来た。

 野島達?

 それとも、玄関先で一人残った浅井か?

 児玉は名前を叫んだ。返事の代わりに銃弾が無数に降り注いで来た。

 児玉はその方向に銃口だけを向け、三度引き金を引いた。

「ギャアッ!」

 壁に血が飛び、胸から腹にかけて撃ち抜かれた男が階段を転げ落ちて来た。

「児玉さぁん!撃たないでくれ」

「野島さん!」

「上にはもう誰もいない!」

 野島が神谷と梶を引き連れて階段を降りて来た。

「こっちはまだこの奥がどうなってるかが判らないんです」

「じゃあ、一緒に行きましょう」

「たいした事は無いが、松山さんが怪我をしてるみたいだから、足の悪い神谷さんと一緒に浅井さんの所に戻って上げて頂けませんか」

 児玉に言われ、神谷が片足を引きずりながら松山に肩を貸し、階段を昇って行った。

 児玉が野島と梶を促し、廊下の奥を目指した。



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