明日なき狼達
 奪った鍵束を扉の鍵穴に差し込んで行く。

 漸く一つが合った。その一本で全ての扉が開けられた。次々と扉を開けて行く。

「これで病室かよ……」

 中を覗いた野島が顔をしかめる。

 扉を開けると、部屋の中から異臭が解き放たれて来る。

 重度精神障害者用病棟……

「ん?何か言ったか?」

 梶の呟きに野島が振り返る。

「国立の精神病院にこういう施設があるという話しは聞いていたが…」

 何十年も前から、多くの患者達が、この病室に長い時間拘束されて来たのであろう。

 部屋に篭っていた異臭には、それら多くの患者達の怨霊のようなものが乗り移っているのかも知れない。

「滝沢の姿も見えない。澤村も見つからないとなると、此処に余り長居をするのはまずいのでは……」

 児玉は自分の腕時計を見た。
 
 銃撃が始まってから、5分余り。長い時間に感じられるが、実際の戦闘というものは、得てして短時間で終わるものだ。

 それでも野島が言うように長居は出来ない。

 そろそろ警察が動く筈だ。

「もう少しだけ探してみましょう」

「ならばもたもたしてられない」

 野島が児玉から鍵束を奪い取ると、駆け出すようにして部屋の扉を開けて行った。

 最後の扉を開けた瞬間、野島の身体が膠着したように固まった。

「さ、澤村か?」

 部屋の中に手枷をされ、壁に括り付けられていた男が力無く頷いた。

 梶が走り寄り手枷を外そうとするが、鍵がされていてびくともしない。扉の鍵束には合う鍵が見当たらない。

「澤村さん、顔を背けていて下さい」

 児玉はそう言うと、拳銃を手枷が繋がっている壁に向けた。

 児玉の意図が判った澤村は腫れ上がった両目を閉じ、顔を背けた。

「離れていて下さい。弾が跳ね返って当たってしまうかも知れませんから」

 野島と梶を下がらせると、児玉は狙いを定め、二度撃った。

 コンクリートの破片が飛び散るのと同時に、澤村の手枷が壁から外れた。

「さあ、急ごう!時間が無い」

 児玉が先導し、野島と梶が澤村を両脇から抱えた。

 玄関先に戻ると、神谷と松山が浅井と共に待っていた。

 野島がトラックに向かい、エンジンを掛けようとした。

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