明日なき狼達
 外が徐々に暗くなっている。陽は既に落ちかけ、辺りは漆黒の闇に時を移そうとしていた。

「児玉さん、音、聞こえますか?」

 児玉も耳をすましていた。

 遠くから聞こえて来る音。何かのエンジン音には違いない。

 数秒して正体が判った。

 それはヘリコプターの爆音であった。

 そのヘリコプターからサーチライトが照らされ、建物の内部にもその灯りが差し込んで来た。更にヘリコプター以外のエンジン音が辺りを揺るがせながら響かせて来た。

「車ですね……」

「ええ、それも何台も……」

「警察がお出ましですか」

 浅井が窓から外を窺う。

 敷地の内部に入って来た車両から、黒い戦闘服のような物に身を固め、全員ヘルメットやゴーグルをしている。手には銃を構え、その動きは明らかに訓練を積んだ人間である事が素人目にも判る。

「野島さん、あれは?」

「警視庁のテロ治安部隊……アメリカのSWATを真似した特殊部隊だが……」

「そんなもんに出て来られたら、俺達助からないですね」

 神谷が力無く笑った。

「とにかく、最後迄諦めず頑張りましょう。とにかく上の階へ行きましょう」

「こんな所でくたばっちまったら滝沢の野郎をぶち殺せなくなっちまうからな」

 野島は撃たれた傷の痛みに耐えながら、気丈に振る舞った。

「浅井さん、足の具合は?」

「大丈夫です。血は止まったみたいですから。それより、児玉さん、右手……」

「これ位、皆さんに比べたら」

「おい、それにしても妙じゃねえか?」

 野島が訝し気な顔をした。

「警察車両が一台も無い……」

「遠巻きにしてるのでは?」

 神谷がそういうと、

「それにしたってサイレン一つ鳴らして来ないってのは変だぜ」

 無数の探照灯が当てられた。ライトに浮かび上がる廃墟の精神病院の建物。

 一本の木から降りて来た男は、近寄って来た男に大きな狙撃ライフルを渡し、代わりに銃身の短いイングラムを手にした。

「郷田さん、周辺は全てこちらで取り囲みました」

「鼠一匹この敷地からは出すな」

「判りました」

 郷田はナイトスコープ付きのゴーグル越しに建物を見つめた。

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