明日なき狼達
 撃たれた傷がかなり痛むのであろう。

 野島の顔面は真っ青というよりも、土気色に近くなっている。それでも、脂汗を流しながら不適な笑いすら浮かべている。

「梶にしたってそうだが、俺達は皆覚悟を決めてこの場所に居るんだ。死ぬ事は確かに怖いが、恐れてはいない。今此処で奴らの手に掛かったとしても、俺は後悔はしないぜ。最後の最後に、この中の誰かが、滝沢に一矢報いてくれりゃ本望さ。まあ、あんただって諦めてる訳じゃねえんだろ?
 さあ、指示してくれ。あんたが俺達の部隊長なんだからよ」

 児玉は野島に感謝した。挫け掛けた心を再び奮い立たせ、児玉は全員に話し始めた。

「外を取り囲んでいるのは、警察ではないでしょう。様子からすると、それ以上の戦闘訓練を積んだプロの集団だと思います。さっき迄のようには行かない相手です。
 今から言う事をよく聞いて下さい。脱出する方向は、一番攻撃の激しい方向へ向かいます」

「……ん?」

 どういう事だ、という顔を全員がしている。

「向こうは、必ず一カ所逃げ道を開いている筈です。抵抗が少ない方向に向かうと、間違い無くそこで待ち伏せをされて、私達は全滅してしまいます」

「あんたが言うんだから間違い無いだろうが、その根拠だけでも聞いて構わないか?」

「理由は簡単です。向かうがプロの集まりだからです。プロの集団なら、100%そういう配置をする筈です。
 幸い、予備の弾はまだ充分にあります。真夜中の闇に紛れ込めたら、後はひたすら敷地外に出るだけ」

 言い終わると、児玉は残り僅かになっていた手榴弾を均等に配った。

 松山は澤村の傍らで怪我の具合を見ている。

 体力はかなり消耗しているが、本人の戦闘意欲は全然失われていない。

 先ず、児玉は皆に病院内で倒した相手の武器と弾を集めさせた。

「いいですか、予想では間違い無く玄関口から敵は攻めて来る筈です。罠を掛けてる方へ私達が逃げ込むように、途中、別方向からも猛烈な銃撃があると思います。その時がチャンスです。全員でその方向に血路を開き、敷地の外に出て、後は車を奪うなどして逃げます。いいですね、途中で絶対に離れないように」

 全員が頷き、松山は澤村に拳銃を手渡した。

< 167 / 202 >

この作品をシェア

pagetop