明日なき狼達
「野島さんっ!」

 名前を皆で何度も呼ぶが、返事が返って来ない。

 野島の生死を確認したかったが、他の者の命がある。此処で止まっている訳には行かない。

 児玉は心を鬼にして、全員に走り出すよう命じた。

 前方から機関銃の連続音がした。

 走れなくても走れ!

 心の中でそう叫びながら児玉は走った。




 野島は息が詰まるような苦しさを感じていた。防弾ジャケットの中に手を回し、背中を触ってみた。何発かはジャケットを貫通したようだ。

 血が手にべったりと着いている。痛みは不思議と感じなかった。ただ、力が全体に入らない。

 目の前の階段とは別方向から銃弾が飛んで来た。弾が野島の足首に当たり、肉を飛ばし骨を砕いた。

 いきなり赤いレーザービームの照準が野島の額に合わされた。

 その方向に三度引き金を引いた。
 
 階段下から男が飛び込んで来て野島に馬乗りになった。

 野島の首筋にナイフの刃が当てられ、そのまま引かれようとした。

「バカヤロー、十年はええんだよ!」

 瞬間的に野島は手榴弾の安全ピンを抜き、男の身体を抱き抱えた。

 ナイフが引かれ血が飛沫を上げる。

 男が野島の身体を離そうとした時、手榴弾が爆発した。

 神谷と松山が振り返った。

「野島さん……」

「クッソォー!」

 神谷が喚きながら自動小銃を腰だめにして乱射した。

「今だっ!」

 児玉が生け垣の向こうに手榴弾を投げ込む。

 松山も続けて手榴弾を投げ、澤村を抱き抱えて走り出した。

 浅井が撃った弾が目の前に立ちはだかった男を倒した。

 生け垣に取り付き、敵の銃弾から一旦身を隠す。五メートルばかり先に小さな用水路がある。その先に最後の生け垣。

 激しい銃撃だった。

 知らず知らずのうちに、児玉も松山も身体の何処かを撃たれていた。

 澤村が、

「匡さん、自分にも銃を」

 と言って手を差し出した。

 腰の拳銃を渡す松山。

 その時、澤村は不思議な事に笑顔を見せていた。

「あんな薄汚れた部屋で死ぬよりは、此処で弾に当たっちまった方が幸せってもんです」

 松山も笑顔を返した。

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