明日なき狼達
 気力をふり絞り、澤村は自力で立ち上がった。

 銃撃の閃光に向けて何度引き金を引いただろうか。

 サーチライトが交錯する。

 ヘリコプターからも銃弾が降り注いで来た。

「用水路に飛び込んでっ!」

 児玉の言葉に皆、転がるように飛び込んだ。水面に無数の水柱が立つ。

 朱い尾をたなびかせて、それぞれの身体を掠めるように弾丸が飛んで来る中、ついに最後の生け垣に取り付いた。

「弾が切れた!児玉さんっ、弾をくれ!」

 神谷が叫ぶ。

 児玉の雑嚢にはもう予備弾倉は残っていなかった。

 児玉だけではなく、全員、既に予備の弾を持っていなかった。

 残るは腰の拳銃だけ。

 生け垣の向こうの私道に、漆黒の闇に溶け込むようなダークな色合いをした重厚な車輌が何台か止まっている。

 テロ対策ユニットの隊員を運ぶカーゴ。

 あれに乗り込めれば……

 銃弾を跳ね返す頑丈な装甲が施されている。大型ダンプと正面衝突しても負けないだけの頑丈さが、自分達を守ってくれる。

 児玉がカーゴに向かって走った。

 皆が続く。





 郷田はほぞを噛む思いだった。

 自分が配置したトラップを簡単に見破られてしまった。

 仮にそうであっても、たかが数人の年寄り相手にこうまでてこずるとは……

 そんな思いが、どす黒く身体中を支配し、怒りの塊となって郷田を走らせた。

 この手で一人残らず始末せねば……

 走りながら腰のホルスターからグレッグ90を抜き、セーフティーを解除した。

 14発……

 マガジン内の弾だけで全員をあの世へ送ってやる。

 私道の方で激しい銃撃戦が行われている。

 ふん、何がテロ対策ユニットだ。結局は本物の戦いを知らない烏合の衆じゃないか……

 怒りは味方である筈の彼らにまで向けられた。

 走っている最中に遭遇した、負傷して助けを求める隊員を郷田は蹴り飛ばしたのである。

 耳に装着したイヤホンに、慌てふためく隊員達の声が乱れ飛んで来る。

 郷田はイヤホンを外し、投げ捨てた。


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