明日なき狼達
「こんな形で貴方に頼み事をしなければならない非礼を先ず謝ります」
「いえ、とんでもありません。私風情のような者をお頼りになるという事は、それなりに込み入った事情がおありであると察しがつきます」
「そう言って頂けると助かります」
互いに差し障りの無い会話でのスタートであった。
その劉が突然、本題を切り出した。
「人を一人始末して欲しいのです」
「……?」
「ご存知のように、私達は台湾を母国としてこの日本に根を生やすべく苦労して来ました。昔は多少の荒っぽい事もして来ました。今の貴方方みたいに……」
「いえ、私は……」
「蛇頭や福建の連中がと言いたいのでしょ?
まあ、それはどちらでも構わないのですが、本省の連中は、正直余り好ましくありません。彼らはこういう事を頼めば、高くない金額でやってくれます。ですが、口も軽い。楊さんは、その点しっかりなさっている」
「そこ迄おっしゃって頂き、私も光栄です。で、相手は誰なんでしょうか?」
「名前を聞いたら、引き受けるという事になりますよ」
「劉先生、お電話を頂いた時点で内容に関係無く引き受けるつもりでしたから」
「その心意気こそ、私が貴方ならと考えた理由なんです」
そう言って、劉は一枚の写真を差し出した。
そこに写っていた人物は、ヤンも良く知っている人間であった。
「この人物を?」
「貴方でもこの人間の名前や素性を知ってらっしゃると思います。簡単に仕事をなせる相手では無い事も重々承知した上でお願いしたいのです。勿論、それ相応の謝礼はさせて頂きます」
「一つ伺っても宜しいでしょうか?」
「答えられる事ならば」
「この仕事は劉先生個人の事情からなんでしょうか?」
「いえ、依頼主の名前は明かせませんが、昔、大恩を受けた方からの依頼でして、その方との関わりを誰にも悟られたくないという事情がありましてね。話せるのはここ迄ですが?」
「いえ、充分です。で、何時迄に?」
「今すぐにでも。依頼主は一刻も猶予が無いと言っております」
「判りました。明日の朝刊にこの人間の死亡記事を間に合わせましょう」
車はいつの間にか道玄坂に戻っていた。
「いえ、とんでもありません。私風情のような者をお頼りになるという事は、それなりに込み入った事情がおありであると察しがつきます」
「そう言って頂けると助かります」
互いに差し障りの無い会話でのスタートであった。
その劉が突然、本題を切り出した。
「人を一人始末して欲しいのです」
「……?」
「ご存知のように、私達は台湾を母国としてこの日本に根を生やすべく苦労して来ました。昔は多少の荒っぽい事もして来ました。今の貴方方みたいに……」
「いえ、私は……」
「蛇頭や福建の連中がと言いたいのでしょ?
まあ、それはどちらでも構わないのですが、本省の連中は、正直余り好ましくありません。彼らはこういう事を頼めば、高くない金額でやってくれます。ですが、口も軽い。楊さんは、その点しっかりなさっている」
「そこ迄おっしゃって頂き、私も光栄です。で、相手は誰なんでしょうか?」
「名前を聞いたら、引き受けるという事になりますよ」
「劉先生、お電話を頂いた時点で内容に関係無く引き受けるつもりでしたから」
「その心意気こそ、私が貴方ならと考えた理由なんです」
そう言って、劉は一枚の写真を差し出した。
そこに写っていた人物は、ヤンも良く知っている人間であった。
「この人物を?」
「貴方でもこの人間の名前や素性を知ってらっしゃると思います。簡単に仕事をなせる相手では無い事も重々承知した上でお願いしたいのです。勿論、それ相応の謝礼はさせて頂きます」
「一つ伺っても宜しいでしょうか?」
「答えられる事ならば」
「この仕事は劉先生個人の事情からなんでしょうか?」
「いえ、依頼主の名前は明かせませんが、昔、大恩を受けた方からの依頼でして、その方との関わりを誰にも悟られたくないという事情がありましてね。話せるのはここ迄ですが?」
「いえ、充分です。で、何時迄に?」
「今すぐにでも。依頼主は一刻も猶予が無いと言っております」
「判りました。明日の朝刊にこの人間の死亡記事を間に合わせましょう」
車はいつの間にか道玄坂に戻っていた。