明日なき狼達
 自分の店に戻ると、一番の腹心である陳を呼んだ。

 劉に呼び出されていた事を心配していた陳が、話しの内容は何だったのかと聞いて来た。

「ある男を始末してくれと頼まれた……」

「我々に汚い仕事を回して来るとはどういう事なんでしょう」

「物事をいい方に捉えるとすれば、我々を信用しての依頼という事になる。特に始末する相手が相手だからな」

「判りました。ならば早速人を手配しましょう」

「いや、この仕事はお前自身でやって欲しいんだ。勿論、俺も一緒だ」

「ボスも?そんな必要があるのか?」

「ああ」

「で、始末する人間は?」

「この人間だ」

 ヤンは劉から貰った滝沢の写真を見せた。

「これ、タキザワ?」

 頷いたヤンを見て陳は自分が想像していた以上の相手である事に気付き、ヤンの言っている意味が飲み込めた。

「何時迄に始末を?」

「今日中……」

「ならば今からすぐ手配しなければ」

「居所が判り次第、俺とお前で……」

「判った」

 返事をしたと同時に陳は店を出て行った。

 ヤンはこの所の裏社会での動きを思い返していた。

 親栄会からある人間達を捜すのに力を貸してくれと依頼をされている。その依頼の裏を取って行くと、滝沢秋明の名前にぶつかった。

 そして今回はその滝沢を殺す依頼……

 裏社会というものが、思いの外狭いのだという事に気付く。

 面向きは、正業を構えてはいるが、元は力だけで己の存在を誇示して来た男だ。久々に暴力の血が騒ぎ始めて来たような気がして来た。

 暫くして戻って来た陳と、額を寄せ合うようにして密談をし、二人は険しい顔をしたまま、店を出た。

 一時間後、二人の姿は滝沢の愛人のマンションに近い路上にあった……。


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