明日なき狼達

追い込まれた狼達

 戦闘が終わり、児玉達を乗せたカーゴも既に見えない。

 郷田の姿も見えない。

 辺りには死体だけが物言わぬ物体として横たわっているだけだ。

 暫くすると、作業衣に身を包んだ大勢の男達が死体を片付けに来た。敷地に入って来た車には、TS警備保障という社名が入っている。不思議な事に、あれだけの銃撃戦がありながら、警察車輌は一台も来ていない。

 一時間もせず、作業衣の男達は全てを片付け終わり、廃墟の病院は元の静寂さを取り戻した。それは、不自然な程の静けさで、薄気味悪さを感じさせた。



 松山は無我夢中でアクセルを踏み続けていた。途中、何度も信号無視をした。後ろに乗っている児玉の容態が心配だった。澤村の状態も、決して良いとは言えない。

「浅井さん、この後、何処に身を隠したらいいんですか?」

 神谷が半泣きの表情で聞いて来た。

「よ、横浜へ行きましょう……」

 撃たれた傷の痛みに堪えながら浅井が言った。

「松山さん、横浜に向かってくれ」

 無言で松山が道を変えた。



 一時間程して、カーゴは関内から寿町に入った。

 寿町。ドヤ街である。

 東京の山谷、大阪の西成等と並んで、その名を知られたドヤ街。

 元々、日雇いの港湾労働者達が多く住み着いた街で、身元の定かでは無い人間達の吹き溜まりになっている。犯罪者の巣窟ともなっているこの街に、浅井は知り合いのヤクザを頼って逃げ込んだのである。

 手配して貰った木賃宿は、元が売春宿だった建物で、全体に異臭が染み付いた古い建物だった。

 ギシギシと煩い音を立てる二段ベット。垢まみれの布団。堕ちる所迄堕ちた人間達の終焉を看取ったそれらのもの。

 神谷は、このままこんな所で果ててしまうのかと哀しくなった。

「ほんの一時です……」

 神谷の様子からそれを察した浅井は、慰めるつもりもあってそう言ったが、実際の所は、浅井自身にも同様の思いがあった。

 もう俺にはどうする事も出来ない……

 加代さんが辻先生に上手く……

 児玉が意識を取り戻した……。

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