明日なき狼達
 二発、三発……

 狭い室内にこだまする轟音。

「匡さんっ、早く!」

 松山が更に銃を階段口に撃ちながら、走り寄って来た。その勢いのまま窓を跳び越す。

 足が何処かに掛かってしまったのか、上手く跳べず、物干し場の欄干に腕だけでぶら下がった。

 澤村と神谷が慌てて松山を引き上げようとした時、階段から一人の男が掛け上がるなり、銃を撃った。

 その一弾が松山の腰に当たった。

 防弾ジャケットを掠めたが、至近距離から撃たれた為に、衝撃は松山の骨を砕かんばかりのものであった。

 その男がもう一度狙いを定めようとするところを、神谷の肩越しに放った浅井の銃弾で蜂の巣にされた。

 移った民家には、老夫婦が居た。老夫婦は突然の侵入者と銃声に驚愕の表情を固まらせたままでいた。

 その家の裏庭に出ると、向かい側のビルから銃弾が降って来た。玄関の方へと逃げ場を求めたが、既に囲まれていた。

 逃げ場が無い……

「こっちだっ!」

 神谷が皆を手招き、寝室の窓を開けた。建物と建物の隙間に身体を滑りこませ、逃げ口を探した。

 片方は玄関前の道……

 神谷は反射的に反対側へ逃げようとした。

 児玉の身体が重い……

 だが置いては行けない……

 尤も、この時の松山達にはそんな考えなど微塵も湧かなかった。

 寝室の窓に児玉の身体を持ち上げようとした時、児玉の意識が戻った。

「置いて行け……」

 そんな言葉など耳に入らなかったかのように、松山も澤村も、そして浅井も必死になって児玉の身体を起こそうとしている。

「いいから、いいから置いて行くんだっ!」

 最後の一言は、辺りに響く程の大きさであった。

「私に構っていたら、全員が死んでしまう……私を此処に置いて早く逃げるんだ」

「しかし、児玉さん……」

「しかしも糞もあるかっ!早く行けっ!」

 その言葉を言い終わると同時に、口から大量の血を吐き出した。まだ躊躇いを見せる三人に、児玉は目に涙を溢れさせながら、

「頼む、年寄りに死に花を咲かさせてくれ……」

 窓の外では神谷が大声で急げと叫んでいる。

 松山がズボンのポケットからハイライトとライターを取り出した。


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