明日なき狼達
「ありがたい。すまんが、火を点けて下さらんか……」

 松山が自分でハイライトをくわえ、ライターで火を点けた。

 一服吸い込み、そのハイライトを児玉にくわえさせた。

「もう一つ我が儘を言わせてくれ。私の銃を……」

 澤村が自分の銃の残り弾を確認し、

「まだ七、八発は残ってます」

「ありがとう。さ、早く……」

 怒声と床を踏み鳴らす音が近付いて来た。

 三人は意を決してその場を離れた。

 建物と建物の隙間は、人が一人やっと通れるだけの幅しか無かった。

「ん?児玉さんは?」

 無言でいる三人を見て、神谷は全てを悟った。

 密集した建物の間を縫うようにして三人は逃げた。途中で何度か相手が襲って来た。

 弾がいよいよ失くなり、途中で撃ち倒した相手から銃を奪い、それを武器にした。倒しても倒しても相手は自分達を襲って来る。

 萎えそうになる気力を振り絞りながら、四人は互いに守り合いながら道を進んだ。何本かの路地を曲がり、改築工事中のビル現場に差し掛かった。向かいに通りが開けている。

 逃げれるか?

 だが、敵はそこにも居た。

 地元のヤクザ達がこちらを遠巻きにして囲んでいた。浅井が匿ってくれるよう頼んだヤクザの顔が見えた。

 浅井の怒りが頂点に達した。

「このヤローッ!」

 怒りに満ちた声を発した浅井は、その男に向けて銃を撃ちまくった。

 ヤクザ達は怯み、物陰に隠れる。お構い無しに浅井は全弾を撃ち込む。

「浅井っ!こっちだっ!」

 澤村が叫ぶ。

 後に続いて逃げようとするところをヤクザ達が追って来る。

 騒ぎを聞き付けた労務者達が集まって来た。

 彼らの中には遠巻きに眺める野次馬だけでは治まらず、ヤクザ達に混じり襲おうとして来る者も居た。

 統制の取れていない集団は、いつしか仲間同士での乱闘になり、暴動のような騒ぎになった。

 社会に疎外され、蔑みの扱いしか受けていなかった彼らの怒りは、凄まじい程の勢いで伝染し、放火や破壊の嵐が吹き荒れた。

 四人はこの機会を逃してはならぬと思い、混乱に乗じて暴動の外に出た。

 少しずつ暴動の外に逃れ掛けた時、街の外れで大きな爆発音がした。



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