明日なき狼達
「郷田ぁっ!」

 声がした方へ身体を向けた瞬間、右腕に凄まじい衝撃が走り、握っていた拳銃が宙に舞った。

 反射的に左手の銃で声の主に向けて銃弾を浴びせた。





 児玉はゆっくりとハイライトを吸い込み、瞼を閉じた。

 そういえば、松山と初めて出会った時も、こうして彼からハイライトを貰った……

 思えば不思議な縁だった……

 何故、此処迄深く関わる事になったのだろうか……

 そんな事を考えながら、もう一服深くハイライトを吸い込む。

 煙りを吐き出そうとした時、肺の中の血が逆流し、床に大量の血をぶちまけた。

 その時、階上で銃声が轟いた。

 児玉は最後の力を振り絞り、拳銃を握り直した。右手で構え、左手を銃床に添える。

 隣の部屋で泣き叫ぶ声がする。

 この家の住人?

 早く逃げろっ!

 此処に居ちゃいけない……

 叫ぼうにも、声が出せない。

 大きく深呼吸をし、まだ僅かに肺に残っていた血を吐き出した。壁を背にし、もたれた状態でじっと部屋の出入り口に銃を向ける。

 隣の部屋で銃声がした。

 黒い背中が目に入った。思い切り声を張り上げ、児玉は叫んだ。

「郷田ぁっ!」

 その声に振り向いた郷田に、児玉は引き金を引いた。と同時に郷田の銃が火を吹き、まばゆいばかりの閃光が、狭い部屋いっぱいに広がった。

 一弾は児玉の右耳を削ぎ、更に別な一弾は首筋を貫いた。

 児玉の身体が崩れ落ちる。

 郷田が銃を乱射しながら近付いて来た。

 身体全体に衝撃が起き、銃弾が命中する度に身体が踊る。目の前に血塗られた編み上げ靴が来た。

 霞み行く意識の中でも、児玉は強靭的な体力と精神力で自分の拳銃を郷田に向けた。だが、引き金を引く力はもう尽きていた。

 右手が編み上げ靴に踏みつけられた。

「児玉一佐……もうすぐ楽にして差し上げますよ」

 銃口が迫る。

 カチン……カチン、カチン……

 郷田の銃にも既に弾は無かった。

 郷田は自分の銃を投げ棄て、踏みつけた児玉の銃を拾った。

 弾は残っていた。

 郷田がニヤリとした。

 あらためて銃を向けた瞬間、児玉は胸ポケットの手榴弾の安全ピンを抜いた……

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