明日なき狼達
「じゃあ、一緒に死に花を咲かせますか……」

 澤村がニコリと微笑んだ。

 神谷が、

「本当に任侠映画ですな。私達は高倉健の世代だけど澤村さん達はVシネ世代だから、さしずめ哀川何とか辺りかな」

 と言っておどける。

 浅井も笑っていた。

 店の隅で事情の知らない店長がポカンとしている。

 その店長に、

「頼まれついでに、もう一つ用事を言い付けても構わないか?」

「はいっ、遠慮せずに何でも……」

 澤村はメモ用紙を貰い、それに必要な事を書いて店長に渡した。

「このメモをうちの人間に渡してくれ。但し、俺の舎弟以外の人間には見られるな。それと、此処に帰って来ない方がいい。渡したら渋谷をすぐに離れるんだ」

 店長はメモを手渡されると、身を翻し、店を出た。

 澤村の身内の若者が店に姿を見せたのは、それから30分もしないうちであった。

「あ、兄貴、ご無事で……」

「それより頼んだ物は?」

「はい、これに」

 若者は手にしていたバックをテーブルの上に置いた。

「誰にも付けられなかったろうな?」

「大丈夫です」

 バックの中を開けると、新聞紙で厳重に包まれた塊が幾つも出て来た。その一つを手に取り、澤村は包みを解いた。包みの中身は全て拳銃であった。

「兄貴、俺も一緒に行っていいっすか?」

「お前は関係無い。このまま何も知らない顔をして組に戻るんだ」

「兄貴の役に立ちたいんです」

「辞めときな。生きちゃ帰れねえんだ」

「覚悟してます……」

「バカヤロー!半人前が一端の口を利くんじゃねえ」

 若者は渋々と店を出て行った。

「今時の若者でもあんなのがおるんですな」

 神谷が言うと、

「神谷さんに言わせれば、奴も任侠映画被れですか?」

 と澤村が笑った。

 これから正真正銘、最後の命のやり取りをしに行くのだという緊張感が不思議と感じられない。

 傷付いた四匹の狼は、互いに最後かも知れない笑顔を見せ合った……。



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