明日なき狼達
 四人が表に出て見ると、雨が降り出していた。

「これで着流しに番傘を差してりゃまさしく高倉健と鶴田浩二の世界ですな」

「そんなシーンを観た記憶があります……」

 笑いながら語る神谷と松山を眺めながら、澤村はこの二人は絶対に死なせてはならないと、特別に意味がある訳でも無いのに思っていた。

 四人は雨に濡れながら宮益坂を登って行った。

 幾つもの傘が歩道に溢れている。傘の行方は殆どが駅に向かっていた。

 郵便局を過ぎると、目指すビルが見えた。

 ここに滝沢が居る。

 四人それぞれが各人なりの想いを抱きながら、そのビルを眺めた。

 ビルの入口に人影は見えない。

 澤村が先にガラス戸に手を掛けた。鍵が掛かっていた。

 澤村はベルトに挟んでいた自動拳銃を抜き撃ちにした。

 乾いた音が辺りに響く。

 ガラスが割れて開いた部分から手を差し入れ中側から鍵を開けた。

 警備員が銃声を聞きつけて駆け寄って来た。

「抵抗しなければ撃たない。大人しく引き下がれ!」

 澤村の言葉に警備員は慌てて建物の奥に逃げた。

 突然、非常ベルが鳴り出した。ビル全体を揺るがす程の甲高いベルの音が耳障りだ。

 浅井が天井や壁を見渡し、非常ベルの所在を探した。

 見当たらない。

 諦めて四人は階段に向かった。

 二階の踊り場に差し掛かった時、銃声が聞こえた。四人共瞬時に反応し、その場に伏せた。

 弾は見当違いの方向に当たっている。

 浅井が這うようにして階段を上り、二階のフロアを見た。弾が浅井の顔を掠めて行く。

 目と鼻の先に、SPのような格好をした男が二人居た。必死に銃を撃っている。

 拳銃を向け引き金を引く。

 あっという間に二人は倒れた。

 浅井の横を松山と神谷が駆け登って行く。

 廊下の奥から一人の男が二人に向かって銃を撃とうとした。

 男が銃弾を発射させる前に、澤村の放った一弾で倒れた。

 順次、上の階へと向かう。それに従って相手の抵抗が激しくなって来た。

 それは、自分達が滝沢に着実に近付いているんだという意味にも受け取れた。




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