明日なき狼達
 飛び交う銃弾。

 弾き出される薬莢。

 コンクリートの破片が頬を掠め、硝煙が鼻腔を刺激する。

 引き金を引き続ける指には感覚がもう無い。

 死体から血が流れ出て溜まりを作り、足を滑らす男達。

 うめき声はこだまし、何時しかそれも息絶え絶えとなり、新たな死体となる。

 理性などかけらも存在しない戦いの場。自分の命を守る為に相手の命を奪う。誰しもが、それを疑問と思わず、それぞれが野性と化した。

 この何時間という間、一体何度このように同じ場面を目にしているのだろう。

 膝が軋む。汗が飛び散り、目が霞む。呼吸が荒くなり、耳は激しい銃声で麻痺している。不思議と心臓の鼓動と、自分の荒い呼吸音だけが聞こえる。

 何度か身体に衝撃を感じた。足が縺れた。

 今は何階だ?

 目の前に真っ赤に充血させた目を剥いて、震えながら銃口を向けてる男がいる。

 何だよ?

 私を撃つのか?

 そうなのか?

 でも私にはもう銃を向けるだけの力は無いよ……

 カミヤサ〜ン!

 カミヤサ〜ン!

「神谷さんっ!撃つて!」

 何処か遠くから名前を呼ばれたような気がした。そして、それがはっきりと耳に飛び込んで来た時、神谷の身体は横に突き飛ばされた。

 同時に何発もの銃弾が交錯した。

 双方から発せられた銃声は、まるで爆発音のように響き、次に訪れたつかの間の静寂の後には、物言わぬ死体が一つと、銃弾を全身に浴びた松山が居た。

「松山さんっ!松山さんっ!」

「兄さん!しっかりするんだ!」

 横たわる松山の背中から、夥しい血が流れ出ている。

 松山の目は虚に宙をさ迷っていた。

「す、済まん松山さん、頼む死なないでくれ!」

「さ、澤村、い、居るか……」

 松山の手をしっかりと握りながら澤村が必死に励ます。

 神谷が松山の頭を膝に乗せ、へたり込んだまま泣きじゃくっている。

「兄さん、俺は此処にいます。大丈夫、これ位の傷、兄さんなら大丈夫っ……」

「俺は、もう、駄目だ……」

「兄さんらしくもない、気をしっかり持って!さあ、滝沢を、一緒に仕留めるんですっ」

 担ごうとした澤村の肩先に、松山の吐血した血が降り懸かった。


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