明日なき狼達
「澤村、松山さんは動かさない方がいい」

 浅井が手を貸し、廊下に寝かす。

 その際に、背中に回した指がずぶりと傷の中に半分程めり込んだ。

 内臓を撃ち抜かれている。腹をやられると人間はほぼ助からない。

「お、俺を、俺を置いて行け……」

「ま、松山さん……」

 躊躇う三人。

 松山は残っている力の限りを振り絞り、自分の銃を澤村に差し出した。

「俺を、ら、楽にさせてくれ……」

 その言葉の意味するところと、差し出した拳銃から、澤村は目を剥いて拒絶した。

「何を言ってんですか!」

「じ、自分で、ゴホッ……」

 松山の口から血が吐き出された。

 泣きじゃくる神谷。

 どうする事も出来ずに立ち尽くす浅井。

 澤村の目をじっと見つめる松山の目が、少しずつ光りを失いつつある。

「自分で、自分で始末が、付けられない……引き金を引く力が……力が残っていないんだ。頼む……楽にさせてくれ……」

 澤村は手に握らされた松山の銃を向けた。

 銃口を向けると、松山はニッコリと笑い、瞼を閉じた。

 澤村は顔を背け、引き金に指を掛けた。

「に、兄さん、さようなら……」

 パーン



 ヤンが滝沢のビルに駆け付けた時には、既に中で銃撃戦が始まっていた。

「陳、俺達も行くぞっ!」

「おうっ!」

「えっ、私はいやだよ」

「誰もお前のようなオカマを連れてくなんて言ってねえ!何処へでも好きな所へ行きなっ!」

 ヤンと陳は車から下り、両手に銃を持ち、ビルの中に入った。

 一階、二階と上の階に行くに従い、死体や怪我人の数が増えている。銃声が近い。

「ボス、向こうの階段だ」

 血溜まりに足を滑らせながら、二人は銃声の方へと急いだ。

 突然、階段から男が転がり落ちて来た。

 その男に向けて二人は銃弾を浴びせた。

 至近距離からの銃撃で、その男の身体が跳ね上がる。

 壁に血飛沫が飛んだ。

 死体となったその男を跨ぎ、上の階を目指した。

 廊下に出ると、社長室と書かれた部屋から三人の男が飛び出して来た。



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