明日なき狼達
 予期せぬ方向から人が現れた事で、三人の男達は茫然自失に立ち尽くした。

 ヤンと陳が銃を向ける。

 両手に大きな袋を抱えた真ん中の男が、

「ま、待て、此処で儂を殺しても何も得はせんぞ。見逃してくれ。な、この通り」

「滝沢秋明だな?」

「そ、そうだ。儂を滝沢と知ってるなら、判るだろ?
 金なら幾らでも出せる。そうだ、こいつをやる。ダイヤだ、これだけあれば、一生楽が出来るぞ!」

「それも悪くは無いが、私は信用を重んじる人間でね。頼まれた仕事はきちんとしなければならないんだ」

 ヤンと陳の銃が今にも火を吹こうかといった瞬間、いきなり陳の額が銃声と同時に割れた。

 反射的に銃を乱射しながらヤンは廊下を転がった。

 ヤン達が上って来た階段を、血みどろの男がゆっくりと上って来た。

 悪鬼の如き双眸。

 ヤンは扉の開いていた部屋に飛び込んだ。

 男の銃が吠えた。

 腿に焼け火箸を突っ込まれたかのような激痛が走った。

「郷田、い、生きていたのか」

 滝沢の声に何の反応も見せず、いきなり滝沢の二人の部下を撃った。

 二人共一撃で額を撃ち抜かれて絶命した。

「な、何を血迷ったのだ!」

 郷田の銃が無造作に滝沢の額に向けられた。

 瞬間、滝沢は手にしていたダイヤモンドが入った袋で顔を隠し、尻餅を着いた。

 郷田の銃から放たれた銃弾はダイヤ入りの袋を直撃し、弾は跳弾となって天井の照明を破壊した。

 火花とともに電気が消えた。

 暗闇の中、ダイヤの袋に抱えたまま後ずさりをする滝沢を、郷田は妙な歩き方で追った。

 カチン、カチン、カチン。銃の弾が切れた。

 ロボットのような歩き方で、滝沢に迫り、郷田の身体が飛んだ。

 滝沢に上から覆いかぶさり、両手で滝沢の首を締め始めた。

 滝沢の目が飛び出そうかという位になり、舌がだらし無く口から半分出ている。

 顔がどす黒くなり、充血した目の瞳孔は開いて行った。力が抜けて、郷田の腕に食い込ませていた爪が外れた。意識を失った滝沢の顔に、郷田の血が滴り落ちている。

「この化け物があっ!」

 パーン、パーン

 僅か一メートルと離れていない距離から、澤村の銃が火を吹いていた。


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