明日なき狼達

けじめ……

 事件の全貌は、警察側の情報統制もあって、その真実は決して、一般社会には伝えられなかった。

 ビル襲撃の後、澤村と浅井は辻の助力もあり、真相を知られる事も無く親栄会に戻った。

 浅井は、暫くの間、加代子と共に辻の自宅で世話になった。



 事件から一ヶ月ばかり過ぎたある日、三輪の元に澤村と浅井がやって来た。

「叔父貴、ちょっと時間を頂けませんか?」

「何だ、雁首揃えて俺にようか。此処じゃ駄目か?」

「ええ、ちょっと込み入った話しなもんで……」

「しゃあねえな」

 澤村と浅井に促されて、渋々三輪は付いて行った。

 車に乗せられ、三輪が連れて行かれた場所は、都心から外れた墓地であった。

「おい、いい加減にしねえか、お前らどういう了見でこんな所迄引っ張り回すんだ?」

「すぐに済みます」

 澤村と浅井はそれだけ言うと、墓地の中を先導した。ある墓石の前に来ると、澤村は両手を合わせて目を閉じた。

「おい、澤村、あんまりふざけた真似すんじゃねえぞ。てめえの先祖の墓参りに付き合わす事が込み入った話しか?」

 浅井が、

「墓石の名前をよぉく見て物を言って下さいよ」

 と言うと、三輪は怪訝そうな表情を見せながらその墓石を見た。

 石丸家の墓……

 石丸、石丸……

 三輪の顔色が変わった。

「雨宮とか名乗っていた男ですが、知ってましたか?郷田貢ってえのが本名らしいですよ……」

「……」

「石丸という名前に記憶が無いって事はありませんよね」

 そう言って浅井は拳銃を取り出した。

「ま、待て、どういう事だ、わしゃ知らんのだ、な、早まるな。澤村、何とか言ってくれ!」

「叔父貴、今の台詞を死んだ松山の兄貴の前でも言えますか?
 尤も、てめえの私利私欲の為にまるで関係の無い人間を殺し、その人間の墓の前でさえ知らねえとほざくあんただ。
 まあ、いい加減、年になっちまったから頭がボケちまったんすかね」

「あれはだな、いろいろと上の方から……」

 三輪の言葉が言い終わらぬうちに、浅井の銃が火を吹いた。

 右側のこめかみから入った弾は、頭蓋の中でぐるりと方向を変えて頭頂部から抜けた。



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