明日なき狼達
 何度かそれらの捜査資料を盗み読みして行くうちに、野島はある共通的な部分に気が付いた。

 それは、全ての事件が必ず警察庁長官の命令でストップが掛かっている事である。

 歴代の長官達が畏怖する相手……

 警察とて人の集まりだ。

 私利私欲が無いなどとは言わない。言えば100%嘘になる。キャリア連中に限らず、現場の叩き上げでさえ、己の出世と保全に努める。自らの保険の為に、力のある者の元へ、人は流れ集まって行く。

 警察官僚の派閥争い程、ある意味凄まじいものは無い。時には身内でさえ売る。ライバルを蹴落とせば、それだけ自分が上に昇る事が出来る。長官といえど、そういったパワーバランスを身につけておかない訳にいかない。

 だから、野島が不思議に思ったのは、他の派閥の人間が長官になっていた後釜に、自分達が座れば、仮に退職した後であっても、叩いた埃を喜んで外にリークしてもおかしく無い話しな筈である。

 だが、それすら無い。

 アンタッチャブルに回された事件は、驚く程多岐に渡っていた。

 レイプ、殺人、詐欺、収賄……

 中には下着泥棒や痴漢等の犯罪といった、長官の所迄上がって行く事の無い事件迄あった。

 それらの資料を何度となく読み進め、もっと具体的な共通点を見い出せないものかと考えた。

 ある日、一つの事件の資料に妙な興奮を覚えた。

 理由は無い。

 勘である。

 数枚にしか及ばない僅かな捜査資料に違和感を感じた。

 警察の捜査資料は、どんな瑣末な事件であっても、関係者の調書でかなりの量になる。数枚という枚数は異常に少ない。

 捜査対象……マル対の名前は、

 滝沢秋明。

 容疑内容、未成年者への暴行及び、猥褻行為。

 本人調書はたった一枚。それも本人の一言が書かれただけである。

 被害者の保護者から届け出があり、捜査担当者が調査したが、結果はアンタッチャブルへ……

 野島は捜査担当者の名前と、被害者家族の名前を書き出し、手帳にメモした。

 翌日、庁内の監査課に居る大学の後輩に、メモした捜査官のその後を調べさせた。

「既に亡くなられてます…殉職して二階級特進と書かれてます」

 野島は心臓が倍近い速さになったのを感じた。
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