明日なき狼達
「殉職て、どういう事だ?」

「ええとですね、親栄会と百人会の抗争事件があった際に、丁度この時の担当捜査官が特別警邏で巡回してたんです」

「待て、巡回て、この捜査官は刑事だったんだろ?制服でも無いのに何で特別警邏に回されたんだ?」

「そこ迄は詳しくは記録に残って無いので判断しかねますが、一応、記録上ではそうなってまして、で、巡回中に百人会系の準構成員だった石丸某に射殺されたと記録されてます」

「その資料、コピー取れるか?」

「えぇぇ、でも捜査資料や記録は持ち出し禁止っすよ……」

「お前と俺の中だろ。何とかしろ。この前の件、内密にしてやるから」

「内密って、あれは別に問題に……」

「いいのか?監査課が経費の流用……こんな事が公になったら、まあ、間違い無く八丈か小笠原辺りに左遷だぜ」

「参ったなぁ、先輩の脅しはマジだからなぁ。絶対、誰にも口外しないで下さいよ。これがばれたら、八丈の島送りどころか、免職になっちまう」

 そうやって手にした資料のコピーを持ち出し、野島は殉職した担当捜査官の事を調べた。

 それ以来、野島の周辺で妙な噂が立ち始めた。

 本庁の野島警視に子供が出来ないのは、彼がゲイであるから……

 根も葉も無い噂ではあったが、エリートコースに乗っている最中の本庁キャリアにとって、こういう噂の方がダメージが大きい。

 資料のコピーを家には持ち帰らず、野島は新宿のカプセルホテルに泊まり込んで丹念に読み返した。関連する資料も集め、出て来た答が、野島にとっては驚くべき事だった。

 滝沢秋明が嫌疑を掛けられた容疑とは、十三歳の男子中学生を暴行……レイプしたというのである。ホテルに監禁し、凌辱の限りを尽くしたと、被害者側の届け出には記載されている。

 担当捜査官は、森巡査部長。

 四十一歳。

 年齢から考えれば、多分バリバリの叩き上げであろう。

 森巡査部長は、自分の出世云々よりも、被害者の怒りを肌で感じ、法の元で真実を白日の下に曝そうとしたのであろう。

 しかし、滝沢秋明は、日本のあらゆる権力社会に根を下ろしたフィクサーであり、正真正銘のアンタッチャブルな人物であったのだ。

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