明日なき狼達
事件は、被害者側が直ぐさま訴えを取下げたのだが、未成年者に対する暴行及び強制猥褻等の事件の場合、例え、被害者側が訴えを取下げたとしても、刑事事件として法は介入する事が出来る。
森巡査部長は当然、事件をうやむやにせず、滝沢秋明の事情聴取を取り付けた。が、実際の取調べには、森巡査部長は加えて貰えなかった。
担当捜査官でありながら、一番要の取調べ捜査から外されたのである。
実際の取調べは、当時の署長と副署長が行うといった、現実には有り得ない事情聴取になったのである。
聴取の結果、書かれた調書は僅か数枚……
滝沢秋明の、
私は何も知らない。
の一言が書かれた調書が出来上がっただけである。
警察は、事件として立件せず、の姿勢を示したのである。
一週間後、森巡査部長はそれ迄の新宿署から、渋谷署へと移動させられた。表向きは、渋谷で起こった暴力団抗争事件の為の応援であった。
三日後、森巡査部長は、署長命令で、渋谷周辺の特別警邏隊への応援出動を命ぜられた。そして、巡回勤務中、繁華街のど真ん中で、彼は凶弾に倒れたのである。
ほんの数秒間で犯人は森巡査部長に計三発の銃弾を発射し、三発とも命中させたのである。
資料のこの下りを読んだ野島は、納得の出来ないものを感じた。明らかに、森巡査部長だけを狙った犯行で、それ自体が非常に綿密かつ冷静に行われた形跡が見取れる。
先ず、森巡査部長と同行していた他の二人の警官には、一発も当たっていない事。防弾チョッキを着用している事を予め知っていたかのように、銃弾の全てが、首から顔面、頭部にかけて命中しているのである。
更に、無傷の二人の警官は、逃げた犯人を僅か五十メートル程追っただけで、再び現場に戻っている。
一人が現場に残り、もう一人が追い掛け続けるというのなら、話しは判る。
二人の警官は、現場近くに落ちていた財布から、百人会系三輪組準構成員、石丸芳樹(23)を犯人と断定、全国指名手配に回した。
野島の頭の中で、どす黒い雲が凄まじい速さで広がり出した。そして、更に驚愕の念を抱いたのが、最後のページを読み始めた時であった。
犯人の石丸は、事件の翌日、円山町にあった女の部屋で刺殺されたのである。
森巡査部長は当然、事件をうやむやにせず、滝沢秋明の事情聴取を取り付けた。が、実際の取調べには、森巡査部長は加えて貰えなかった。
担当捜査官でありながら、一番要の取調べ捜査から外されたのである。
実際の取調べは、当時の署長と副署長が行うといった、現実には有り得ない事情聴取になったのである。
聴取の結果、書かれた調書は僅か数枚……
滝沢秋明の、
私は何も知らない。
の一言が書かれた調書が出来上がっただけである。
警察は、事件として立件せず、の姿勢を示したのである。
一週間後、森巡査部長はそれ迄の新宿署から、渋谷署へと移動させられた。表向きは、渋谷で起こった暴力団抗争事件の為の応援であった。
三日後、森巡査部長は、署長命令で、渋谷周辺の特別警邏隊への応援出動を命ぜられた。そして、巡回勤務中、繁華街のど真ん中で、彼は凶弾に倒れたのである。
ほんの数秒間で犯人は森巡査部長に計三発の銃弾を発射し、三発とも命中させたのである。
資料のこの下りを読んだ野島は、納得の出来ないものを感じた。明らかに、森巡査部長だけを狙った犯行で、それ自体が非常に綿密かつ冷静に行われた形跡が見取れる。
先ず、森巡査部長と同行していた他の二人の警官には、一発も当たっていない事。防弾チョッキを着用している事を予め知っていたかのように、銃弾の全てが、首から顔面、頭部にかけて命中しているのである。
更に、無傷の二人の警官は、逃げた犯人を僅か五十メートル程追っただけで、再び現場に戻っている。
一人が現場に残り、もう一人が追い掛け続けるというのなら、話しは判る。
二人の警官は、現場近くに落ちていた財布から、百人会系三輪組準構成員、石丸芳樹(23)を犯人と断定、全国指名手配に回した。
野島の頭の中で、どす黒い雲が凄まじい速さで広がり出した。そして、更に驚愕の念を抱いたのが、最後のページを読み始めた時であった。
犯人の石丸は、事件の翌日、円山町にあった女の部屋で刺殺されたのである。