明日なき狼達

老いてもなお…

「寒っ……」

「起きたかい?」

 加代子は辺りを見回し、何故自分がこの場所に居るのかを、暫く理解出来なかった。カウンターには、飲みかけのグラスが幾つもある。

「……神谷。あんた何でここにいんのよ」

「姐御、飲み過ぎて覚えてないのかい?」

「待って、今思い出すから……痛っ」

「完璧な二日酔いだな」

「水……」

「判った」

 神谷は冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。グラスに注ごうとすると、

「七面倒くさいから、そのままおくれ……」

 手を延ばした加代子にボトルを渡す。喉を鳴らしながら一気に飲み干した加代子は、

「思い出したよ。他の唐変木達は?」

「帰る巣が在る者は、太陽と共に去って行った」

「やだよまったく、何年経っても文学青年気取りやがって」

「もう文学老年だ……」

「あほくさ……それよか、なんか食わしてくんない?無性に腹が空いて来たョ」

「食べれるかい?」

「ふん、これ位の酒で食い物が喉を通らないようじゃ、西田加代子も終わりってもんだ。ただし、あんたがまともなもん作ってくれたらの話しだけどね」

「トマトのリゾットでもいいかい?」

「へえ、名前だけはまともそうだねぇ。それで我慢してやるよ。」

 神谷は、一つだけ残っていたトマトと、玉葱、ベーコンを刻み始めた。

 ついでだ、残り物を全部いれるか……

 と思ったが、よくよく考えてみると、昨日で店を閉めたから、仕入れをしていなかった。

 俺も二日酔いで記憶が薄れたか……

 いや、歳取っただけか……

 調理をしながらそんな事を考え、一人にやけている神谷を見て、

「薄気味悪い笑い方しないでおくれ。鍋ん中に毒でも入れたんじゃないかって思うだろ」

「大丈夫、姐御の生命保険は狙ってないから」

「あら、遠慮深いわね。うまい事やりゃあ、十億位にはなるのにさ……。
 まあ、あんたはいざって時んなると、何気に腰が引ける男だからね」

「それ位減らず口が言えればこれ位は食べれるね」

 神谷は丼に出来上がったリゾットを入れた。貪るようにしてスプーンを口に運ぶ加代子は、

「ばかやろ、美味いじゃない」

 と言った。
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