明日なき狼達

そして、始まり……

 暫くするうちに、青山は様子がおかしいと感じ始めた。道が明らかに違うと感じ、運転手に英語で違うと言った。

 運転手は、バックミラー越しににやっとしただけでスピードを緩めない。

 悪い予感がし始めた。

 青山は、万が一を考え、カード以外の現金全てを出せるようにした。

 外国で強盗にあったら、抵抗してはならない。現金を素直に渡してしまえば、命は助かる可能性がある。少しでも抵抗の素振りを見せたらアウトだ。

 バックミラーに映らないように、航空券とクレジットカードを靴下の中に入れた。

 タクシーは、いつしかサトウキビ畑ばかりの人気の無い殺風景な場所を走っていた。

 30分も走っていただろうか。

 廃屋のような小屋の前でタクシーは止まった。

 青山は、とにかく命だけは取られないようにしなくてはと考えた。

 まともに闘っても、荒事に縁の無い生活を送って来た青山には目の前の運転手に勝てる見込み等、万に一つも無い。

 運転手が降り、後部座席に回って来た。

 相変わらず無表情だ。寧ろ、その方が恐怖感を募らせた。

 こいつは、平気で人を殺せる男だ……

 青山は全身に鳥肌が立つのを感じた。

 ドアが開き、運転手が手招きをした。

 青山が降りると、運転手の手には、黒光りしたオートマチックの拳銃が握られていた。

 首根っこを掴まれるようにして廃屋の方へと連れて行かれた。

「金はやる、命は助けてくれ!プリーズマネー!プリーズマネー!ドント シュート!ヘルプ ミー!」

 懇願する青山を無視し、運転手は廃屋の中へと青山を入れた。

 転がされるようにして廃屋に入れられた青山は、中に人影があるのを見た。

 太陽の光りの入らぬ小屋で、その人影がはっきりと見て取れた時、青山の恐怖感は更に絶頂へと昇りつめた。

「青山君……」

「た、滝沢さん……」

「儂が一番嫌いな事が何だか、君はよぉく知ってた筈だったが……」

「……」

「儂を裏切った者の末路を君も知らぬ訳無かろう。残念だよ……」

「た、助けて下さい!お、お金は、全てダ、ダイヤに代えましたが、僕がニューヨークに行かないと……」

「その事なら君の手助けは必要無い……悲しいがお別れだ」
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