明日なき狼達
 声にならない悲鳴を上げた青山に、滝沢が背を向けると、運転手が拳銃を青山の後頭部にピタリと付け、無造作に引き金を引いた。

 パーンという音と同時に、バタンと床に倒れ込む音がした。

 俯せに倒れた青山の額から、夥しい血がじわじわと床を濡らし始めた。

 運転手は、青山の死体を片手で引きずり、小屋の外へ出た。

 小屋の中に一人残った滝沢は、ズボンのポケットからケータイを取り出し、何桁かの番号を押した。

「やあ、今回は随分と世話になった。礼は約束通り受け取ってくれたまえ。それと、父上に宜しくと……」

 そう言って電話を切った。

 表に出ると、運転手が廃屋のガレージから別な車を出して来た。

 青山の死体は、タクシーの中に入れられている。

 運転手は、車から降りると、乗って来たタクシーにガソリンを撒き始めた。

 運転手は滝沢に下がるようにと手で示すと、おもむろにジッポーを取り出し、火を点けてタクシーに投げた。

 ボンッという鈍い音とともに、一気に火の手が上がり、青山の死体を乗せたタクシーは紅蓮の焔を上げた。

 滝沢は、その光景を暫く眺めていた。

 運転手が手招きをし、車に乗るように片言の英語で喋っている。

 漸く車に乗り込んだ滝沢は、運転手に分厚いドルの束を渡した。

 受け取った運転手は、その時妙な顔をした。

 人を殺せと命じた男が泣いていたのである。それも、まるで最愛の者を野辺の送りに出したかのような、真実悲しげな泣き方であった。

 日本人は訳の判らぬ人種だ……

 多分、運転手はそんな事を思ったかも知れない。

 車は、抜けるような青空に向かって立ち込める黒い煙りと、焔を背にし、その場を走り去って行った。

 翌日、ニューヨークとロンドン、アントワープで取引されたダイヤが、それぞれ様々な商品に紛れて日本向けの船便に積まれた。

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