明日なき狼達
 松山の拳に何度も衝撃が走った。それ以上に相手の拳が顔面や腹に減り込んで来た。

「てめえら何やってる!」

 ドスの利いた怒鳴り声がした瞬間、相手の若者達はその場に立ち尽くした。

「堅気の人間相手に何考えてんだ!」

 仕立てのいいスーツに身を固めた男がエレベーターから降りて来るなり、四人の若者に平手打ちをし、松山達から引き離した。

「俺んとこの若いもんが済まない事をした。今日の所はこれで勘弁してくれ」

 その男は財布を取り出すと、中から何枚かの一万円札を抜き、松山の方へ差し出した。

 松山は、出された金には目もくれず、その男の顔をじっと見つめていた。

 松山の視線にその男は訝し気な表情をし、そして、何かを思い出したかのように、それは驚きの表情に変わった。

「匡さん……」

「澤村……」

「お久しぶりです……」

「百人会の事務所が?」

「いえ、自分の事務所でして」

「組持ちになったんだ……」

「兄さんには随分と世話になりました。中にいらっしゃる間に、兄さんの組が解散となり、百人会もあの後は親栄会へと……」

「変わるもんだな……」

 亮太と他の四人は、事の成り行きが理解出来ず、茫然と立ち尽くしたままでいる。

 澤村は出し掛けた金を慌てて引っ込め、

「てめえら、飛んだ恥かかせやがって!お二人に土下座して頭下げろ!」

 と言った。

 四人の若者は、その場に土下座し、言われた通り両手を着いて頭を下げた。

「すいませんでした!」

「兄さん、知らぬとはいえ申し訳ありませんでした。こいつら、まだ行儀見習いとはいっても、自分が面倒見てる人間です。この不始末は自分が……」

 そう言って頭を下げる澤村に、

「俺はもう堅気だから……それより、こいつにきちんと謝ってやってくれ」

 亮太の手を引き、澤村と四人の若者の前に押し出した。

 頭を下げられた亮太の方が恐縮してしまい、おろおろしてる。

「もういいですから」

 亮太はどうしていいか判らずそう言った。

「本人もそう言ってるし、それに俺達、まだ仕事の途中なんだ。これでさっぱり終いにしよう」

 そう言うなり、松山は再びモップを手にした。


< 49 / 202 >

この作品をシェア

pagetop