明日なき狼達
暫く無言の時間が二人の間をさ迷った。
程よく酔いも回り、松山はそろそろ帰る時間だと澤村に言った。
「寿司の味を思い出させて貰ったよ。ありがとう」
「いえ、とんでもない。まだ時間があるようでしたら、赤坂で妹が店をやってるんです。どうですか?」
「妹さんて……」
「久美子です」
「あの小さかった?」
「ええ、ちびで泣き虫の」
「そうか、もうそんな歳になるか……」
「早くいい男でも見つけて、嫁にでも行って欲しいんですけどね」
クラブのイベントに向かう若者達や、ほろ酔い加減のサラリーマン達の中を、二人は歩いた。
澤村がタクシーを止めようとした時、丁度正面から数人の男達が坂を下りて来た。
その男達の先頭を歩いている人間を見て、澤村は頭を下げた。
「おう」
酒で赤ら顔に染めた三輪であった。
松山は澤村から少し離れてやり過ごそうとした。
「澤村、一緒に付き合わねえか」
「今日はお客さんと一緒なもんで」
「そうか、じゃあ又な」
三輪は松山に気付かず、若い者を従えて二人の横を通り過ぎて行った。
「兄さんの顔、忘れたんすかね」
松山はそれには答えず微笑んだ。
「余程、兄さんですよって言おうかなと思ったんですが」
「私はもう堅気だから……今夜は此処で失礼するよ。
まだ中での習性で夜更かしが出来なくてね」
「じゃあ、酔い醒ましに珈琲でも」
松山はそれも遠慮しようとしたが、澤村の眼差しが単なる誘いだけでは無く、何かを訴えたがっているように感じられ、
「じゃあもう少しだけ」
と言って澤村の後について行った。
「暫く歩きますが勘弁して下さい。組の者が来ない店でゆっくりした方がいいでしょうから」
澤村と入った店は、神泉の駅近くにある珈琲ショップだった。
奥のテーブル席に座り、珈琲を注文した。
澤村は何か考え事をしているふうに見えた。
「何か話したい事があったんじゃないのかい?」
「ええ、まあ……」
「大概の事には驚かなくなったから、遠慮無く話せばいい」
「はい……」
珈琲を半分程飲み干すと、澤村は一気に語り出した。
程よく酔いも回り、松山はそろそろ帰る時間だと澤村に言った。
「寿司の味を思い出させて貰ったよ。ありがとう」
「いえ、とんでもない。まだ時間があるようでしたら、赤坂で妹が店をやってるんです。どうですか?」
「妹さんて……」
「久美子です」
「あの小さかった?」
「ええ、ちびで泣き虫の」
「そうか、もうそんな歳になるか……」
「早くいい男でも見つけて、嫁にでも行って欲しいんですけどね」
クラブのイベントに向かう若者達や、ほろ酔い加減のサラリーマン達の中を、二人は歩いた。
澤村がタクシーを止めようとした時、丁度正面から数人の男達が坂を下りて来た。
その男達の先頭を歩いている人間を見て、澤村は頭を下げた。
「おう」
酒で赤ら顔に染めた三輪であった。
松山は澤村から少し離れてやり過ごそうとした。
「澤村、一緒に付き合わねえか」
「今日はお客さんと一緒なもんで」
「そうか、じゃあ又な」
三輪は松山に気付かず、若い者を従えて二人の横を通り過ぎて行った。
「兄さんの顔、忘れたんすかね」
松山はそれには答えず微笑んだ。
「余程、兄さんですよって言おうかなと思ったんですが」
「私はもう堅気だから……今夜は此処で失礼するよ。
まだ中での習性で夜更かしが出来なくてね」
「じゃあ、酔い醒ましに珈琲でも」
松山はそれも遠慮しようとしたが、澤村の眼差しが単なる誘いだけでは無く、何かを訴えたがっているように感じられ、
「じゃあもう少しだけ」
と言って澤村の後について行った。
「暫く歩きますが勘弁して下さい。組の者が来ない店でゆっくりした方がいいでしょうから」
澤村と入った店は、神泉の駅近くにある珈琲ショップだった。
奥のテーブル席に座り、珈琲を注文した。
澤村は何か考え事をしているふうに見えた。
「何か話したい事があったんじゃないのかい?」
「ええ、まあ……」
「大概の事には驚かなくなったから、遠慮無く話せばいい」
「はい……」
珈琲を半分程飲み干すと、澤村は一気に語り出した。