明日なき狼達
「最近、三輪の叔父貴の所に新顔が一人入って来たんですが、どうも初めて見た顔じゃない気がしましてね。暫くはなかなか思い出せなかったんですが、先だって銀座の本部へ用事に出向いた時に、たまたまその人間が本部の者と親しげに話してるのを見たんです。で、後から聞いたら、十何年振りかで戻って来た人間だったって事が判りましてね……。
 まあ、その時は出戻りか、位の感じでしか思ってなかったんですが、ある噂を耳にしてからその人間の事をいろいろ調べてみたんです」

 此処迄は一気に話した澤村だったが、続きをどう話そうかと考え込み始めた。

「それで?」

 と、松山が先を促すと、漸くぽつりぽつりと語り出した。

「兄さんの事件の発端となった警官殺しなんですが、組を破門にした石丸を兄さんが上からの命令で始末しに行きましたよね……。
 石丸が所属していた村上組が、石丸は犯人じゃないと言い張り、それが元で組内での争いに迄発展して、結果、三輪の叔父貴を始めとする当時の百人会が分裂…主流派だった村上組自体もその事で破門。で、兄さんが百人会総意の元、石丸を刺した。
 三輪の叔父貴は、それをきっかけに百人会をまとめ、既に引退していた古森の叔父さんを神輿にして百人会を自分が仕切るようになった。
 一年後、百人会をまとめた上で親栄会の傘下に入ったという訳ですが、警官殺しの犯人とされた石丸なんですがね、どうも本当に奴が犯人じゃないという話しが組内や、警察内部にまで広がっていたんです」

「……」

「警官殺しの本ボシは、別に居る。じゃあ誰かって事なんですが、その当時、三輪の叔父貴の所に出入りしていた人間で雨宮という男が居たんですが、事件直後に組内でぷっつり行方が判らなくなったんです。警察でも一応マークしたようなんですが、その後に兄さんが石丸を刺し、で、警察の上層部も警官殺しの捜査を打ち切った訳なんです……」

「石丸が警官殺しの犯人じゃなかったとしたら、俺がやった事の意義はどうなるんだ?」

「ヤクザが警官を的に掛ける……警察からすれば面子に掛けて真相をと動く筈にも関わらず、随分とあっさり引いてるんです。で、更に妙な噂がその後に流れましてね、警官殺し自体が、警察と自分達ヤクザがつるんで描いた絵図じゃないかって……この噂通りであれば、パズルは綺麗に埋まるんです」

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