明日なき狼達
「日本に残った最後のフィクサー……」

 松山はある事を思い出した。

 それは、刑務所に入ってから知った事だったが、百人会と親栄会を手打ちにさせ、百人会そのものを親栄会に組み入れさせた人間が滝沢秋明であったと……

「その滝沢秋明というのが、警官殺しに関係が?」

「よく判らないけど、その記者さんが話してくれたのは、殺された警官が、タキザワ何とかを何かの罪で逮捕したらしいの。それが事の始まりらしいって……」

「ママ、今の話しを余りいろんな所でしない方がいいよ」

「殺し屋に狙われるかしら?」

 そう言って笑ったのはママだけで、松山もその男も、それを冗談とは受け取らずに押し黙っていた。

「そろそろおあいそして貰おうかな」

 松山はそう言って最後の一万円札を出した。

 もう一人の男も同じように勘定をと言った。

「二人いっぺんに帰っちゃうなんて寂しくなるじゃないの」

「又来るよ」

 時計を見ると夜中の二時を過ぎている。

 始発迄どう時間を潰そうか……

 店を出て、煙草をくわえた。自分のライターをポケットから出す前に、横から火を出された。

「失礼ですが、松山匡さんですよね?」

 飲み屋で一緒だった男が名前を呼んだ。

「……」

「人違いでしたらお許し下さい。私は、野島謙太郎と申します。……元刑事です」

 松山はくわえかけた煙草を握り潰した。

「松山さんなんですね?あっ、ご心配無く、今も言いましたが、もう警察とは関わりはありません。定年しましてね。実は、お店に入られる前に擦れ違った時、よもやと思ったんです。貴方が関係した事件……私もあの事件に関わって人生が……」

「まだ私は自分の事を松山匡とは認めてませんが。もし、人違いと言ったら」

「長年刑事なんて仕事をやってると、人の顔をなかなか忘れないもんなんですよ……特に、あの事件は散々調べましたから。誤解の無いように言って置きますが、私が調べたのは、滝沢秋明です」

 松山は野島から逃れるようにして歩き出した。

「松山さん……どうです、その辺でご一緒しませんか?」

「私はまだ松山匡とは言っていない……」

 野島はぴたりと後を着いて来た。


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