明日なき狼達
 部屋に居合わせた者全員が、加代子の言葉に頷いた。

「梶さん、俺を調査員としてそちらの興信所で使って貰えないかな?」

「天海に頼んでみるけど、給料が……」

「金とかじゃなく、この件を調べるのにって事」

「そういう事なら、アドバイザーみたいな肩書の非常勤でという事にして頼んでみますか」

「宜しく」

「それで、一体何をどうするって話しになるの?」

「俺は、とにかく滝沢という人間をきちんと司法の場にだね」

「野島さん、貴方らしくも無い。本当はそんな綺麗事なんか考えてないだろ?」

「……」

 梶の言葉に野島は押し黙った。

「自分の警察官僚としてのキャリアをぶち壊された事への復讐……違うかな」

「ちょっとあんた達、そんな事どっちだっていいじゃないの。言っとくけど、本来の主役はあたしなんだからね」

 加代子の物言いがおかしかったのか、松山が苦笑いをした。

「その線で行くと、自分は皆さんと一緒の舞台にはお呼びじゃないかも知れない」

「個人の思惑なんてどうでもいいんじゃないんですか?」

 ずっと黙っていた神谷が口を開いた。

「行動原理がある一つの元へ向かうなら、多少の違いなど関係無くなる」

「久し振りに神谷の全共闘節が聞けたな」

 梶の冷やかしに神谷は仕切りに照れた。

「先ず加代さんの件からだが、ニシダビューティクリニックの資産が青山によって奪われたんだが、銀行を洗って行くうちに、金の流れがぷっつり切れてしまったままなんだ」

「どうせ、スイスとかの銀行に隠し口座があってなんて話しになるんじゃないの?」

「加代さん、今はそう簡単にスイス銀行がどうこうなんて出来ないし、犯罪絡みの大金に関しては、数年前から各国の金融機関が目を光らせているんだ。金の流れはどう隠したって記録に残る形になっている」

「梶さん、だけど香港やカリブ海の島国の銀行じゃ、今でもマネーロンダリングが堂々と行われてるんじゃないの?
 現に、殺された青山はカリブ海のバハマに行ってた訳だし」

「犯罪や巨額の脱税の金がどんなにクリーニングされても、金の流れ自体は消せないもんさ」

「て事は、現金がそのまま動いてるって事だ」

「そうだね……」
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