明日なき狼達
「加代さんの金だとかどうとかの問題じゃなくて、とにかく滝沢を何とかしたい……」

「野島さんが一番熱くなってる」

「自分の復讐心だけじゃなく、警察内部の膿に対しての憤りもあります。殺された青山も、確かに加代さんからすれば許されざる者かも知れないが、滝沢はそれ以上に許してはならない」

「あたしだってさ、青山に騙されて腹は立ったけど、別に憎しみ迄は湧かなかったからね。奴も殺され損だよ、まったく……」

「でも現実にどう滝沢に立ち向かうっていうの?」

「歴代の警察庁長官が手を出す事を躊躇う程の相手だ、今更悪事を暴いてどうのこうのなんて望めない」

「裏の世界にも顔が利く奴だし……」

「マスコミにリークするとかは?」

「俺達が調べ上げた事が、例え事実だと判明しても、マスコミは絶対にその通りには伝えないし、取り上げる事すらしないと思うね」

 それ迄余り喋っていなかった松山がぽつりと漏らした。

「私達だけでも何気にいい勝負が出来ると思いませんか?」

 児玉は驚きながら松山の目を見た。

 初めて見る険しさと、力のある眼差しだった。

 レンジャーの教官をしていた頃、過酷な訓練に耐えられるかどうかの判断に、その人間の目を基準にしていた。脱落して行く多くの者達の眼差しには、大概ぼんやりとした膜が張ったようになっている。最後迄やり遂げる可能性の高い者は、常に獣のような険しい眼差しを持っている。人間としての理性では無く、野性の部分がそれを凌駕して来なければレンジャー訓練に耐えられない。

 今、松山の眼差しにそれを感じた。そして、不思議な事に、自分も身体の内部が熱を帯びたようになっていた。久しく忘れてた感覚である。

 富士山の樹海に僅か三日分の簡易食糧を携帯し、最低一週間は放り出される。時には十日や二週間に及ぶ事もある。三日もすると、自分が自然の中で一体化した感覚になる。五感が研ぎ澄まされ、正しく野性の獣と化す。その時の感覚を今でも忘れられない。

「あの……私にも皆さんのお手伝いをさせて頂けませんか?」

 児玉の突然の申し出に、五人は驚いて顔を見合わせた。

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